15

 タンッと地面を蹴り付けて、リンクくんが崖から飛び降りる。すかさずパラセールを広げて滑空しつつ、上空から狙いを定める。ぱっとパラセールを畳んだかと思うと、降下しながらリンクくんが続け様に放った矢は見事にボコブリンたちの頭部に命中し、あっという間に黒い靄となって消えていった。崖の上からその様子を見ながら、私はドキドキするような、悔しいような、でも何も不安がないという複雑な気持ちでぎゅっと拳を握る。

 リンクくん……君、ハイスペックすぎないか。

 崖下に着地してにこやかに手を振って来るリンクくんに軽く手を振り返して、私はふぅっと息を吐いた。この人、ほんと私の面倒を見てる場合じゃないんじゃないの……。

「ナマエさん、降りてきていいよ」
「わかった。今行く」

 リンクくんの言葉に、躊躇なく崖から飛び降りる。彼がやっていたのと同じようにパラセールを広げて少しの浮遊感を楽しんだ後、身体の感覚に従ってパラセールを操作してリンクくんの目の前に着地した。

「……何の躊躇もなく飛んだね」
「へ?」
「いいや、こっちの話。パラセールの操作も覚えてるみたいだね」
「そうみたい。楽しいね、これ」
「……そっか。それなら良かった」

 浮遊感がクセになるかもしれないなぁなんて手に持ったパラセールの構造を見ていたら、リンクくんに笑われた。その笑顔が少し不自然な気がして、じっとリンクくんの空色の瞳を見返す。
 すると少し困ったような表情になった。

「何?」
「前は極力パラセールを使わないように避けてたのにな、と思って。怖くなくなった?」
「うーん……怖いのは怖いけど、やってみたら意外とイケたから楽しくなったって感じかなぁ」
「そっか。落ちないように必死で俺にしがみついてたのが懐かしいや」
「むしろその飛び方の方が危なくない……? リンクくんにしがみついてた……? よく私の腕力何とかなったね」
「腕力の限界迎えても大丈夫なようにベルトで固定してたからね」
「えー……毎回?」
「そう。毎回」
「それは……めんどくさかったでしょ。置いていけば良かったのに」
「山の頂上でも?」
「……やっぱ連れて行ってもらって良かったのかな。そもそも山登りで頂上まで行ってたのか……なかなかアクティブだったんだね。私」
「自分で戦えるようになってからはそうだったね」
「もしかして崖も登ってた?」
「さすがにそれはなかったよ。一度だけ崖に張り付いて動けなくなって、腕がプルプルするって言って涙目になってたことがあった」
「うっわ、恥ずいっ! でもやってそうだ、私!」

 その時のことを思い出したのか口元を抑えて視線を逸らすリンクくん。

「くそぅ! 笑いたきゃ笑え!」
「そうそう。それもナマエさん、よく言ってた」

 思わずといった体でぶはっと吹いてしまったリンクくんがお腹を抱えて笑う。どんだけツボってるの。

「もう! リンクくん、失礼!」
「ごめんね、ナマエさん。よしよし」

 リンクくんの手が私の頭を撫でる。
 ん……?

 あまりにも自然なその動きに一瞬普通に流しそうになったけど、えーっと……あれぇ?

「リンクくんは当たり前のように人の頭を撫でるの?」
「え……あ、ごめん! つい……」

 私の言葉に、笑顔から一転しゅんっとするリンクくん。どうやら無意識だったらしい。……つまり、それだけ気安い間柄だったことは本当なのか。私も……なんか嫌じゃないし。

「いいよ。嫌じゃないし……。ねぇ、もう一回いい?」
「頭撫でるの?」
「頭撫でるの」

 リンクくんの手を取って、自分の頭に乗せてみる。
 うん。なんか、不思議としっくりくる感じ。

「よしよしして」
「……失礼します」
「……(何で敬語)」

 リンクくんの頬がちょっと赤くなってる。その顔を見たら、私の中でむくむくとイタズラ心が湧いてきた。それに、なんだか本当に落ち着くし、何となく身体が覚えている気がする。

「リンクくんに撫でられるの、好きかも」
「……!」
「何か、しっくりくる気がする」
「ん……そっか」
「あのさ」
「?」
「ぎゅってしていい?」
「!」
「ダメ……かな?」

 リンクくんのことを覚えていないのに、心はリンクくんを求めてる気がする。これで実は恋人でも何でもありませんでしたー! なんてオチだったらなかなかの黒展開だけどねぇ。
 私の言葉にリンクくんは少し躊躇する素振りをみせたけど、はいっと腕を広げてじっと見つめたら、耳先まで真っ赤になってそっと手を伸ばしてきた。ゆっくりなのが焦ったくて、私からリンクくんの背中に腕を回すと、まだ迷っている素振りを見せながらもぎゅっと応えてくれた。

「あー……なんか落ち着く」
「ナマエさん……」
「ごめんねリンクくん。リンクくんのこと覚えてないのに、この感覚は覚えてる気がする。しばらくこのままでもいい?」
「……うん」

 きゅっとリンクくんの腕の力が強くなる。

「わぁ……心臓の音すごいね」
「ナマエさんのせいだと思う」
「リンクくんは私のことが大好きなんだねぇ」
「……大好きだよ」
「じゃぁ、頑張って思い出すね」
「……うん」

 ぎゅーっとまた腕の力が強くなって、首元に顔を埋められた。あーあ。また泣かせちゃったかな。微かな嗚咽は聞こえないフリをして、トントンっとリンクくんの背中をゆっくり軽く叩く。
 一方で、可愛いなぁとは思うけど、リンクくんが好きだなぁという気持ちはまだ思い出せない。伝わって来る鼓動の速さと、冷静な自分の気持ちとの温度差が、なんだか申し訳なくなった。