ハテノ砦に始まりの台地からの救援要請が入った。遠すぎる距離に諦めを見せるインパさん、諦めたくないゼルダ姫、焦燥感でいっぱいの兵士たち、その窮地を救ったのはプルアさんだった。
「ハイラルのどこでも、軍勢まるごと移動できるよ!」
プルアさん、凄すぎるわ。
ゲーム中での決めポーズが現実と被る。
「行きましょう!」
ゼルダ姫の力強い号令と共に、ハテノ村の軍勢が蒼白い光に包まれた。目指すは始まりの台地。そこでゼルダ姫にとって嬉しい再会が待ってる……。
……と言う感じに、現実は私の知っている物語と大筋で同じ筋道を辿っていた。この中でイレギュラーなのは異世界人である私と、本来なら過去に飛ぶはずのなかった百年後のリンクくん。
世界線は違えど同一人物だからなのかよくわからないけれど、見た目が被るからややこしいと言うことでリンクくんはもっぱら忍びスーツで過ごしてる。曰く「ナマエさんが忍びスーツをずっと着るなら俺もお揃いにする」だそうだ。意味がわからないとちょっと冷めた目で見たら、わかりやすく落ち込んでいた。……それも演技っぽかったけど。
そんなリンクくんと私は、基本的にはゼルダ姫たちとは別れて行動していて、ツーマンセルで動いている。本陣から遠く離れたところを中心に、救援が来るまでの時間稼ぎが主な役割。偽善だとは思うけれど、こうやってどうしても本陣からの救援の手が届きにくいところで、少しでも救える命があるなら、出来るだけのことをしたい。リンクくんはそんな私の気持ちを汲んでくれている。そして、力になってくれている。
百年前のリンクさんは本当に『強い』って感じでばったばったと敵を薙ぎ倒していくけれど(脳筋という言葉が過ったのはナイショ)、リンクくんはそれを最小限の労力でやっている感じ。今また魔物の群れを全滅させて、涼しい顔をしている。
「すごいね……リンクくん。あっという間に倒しちゃった……」
「惚れ直した?」
「うん。惚れなおした」
「!(自分で聞いておいて何だけど、ナマエさん可愛いっ! 抱きたい!)」
「……(何か変なこと考えてるな……)怪我してない?」
「大丈夫。ナマエさんも怪我してない?」
「うん。怪我とかそういう次元の前に、リンクくんが魔物を倒しちゃうから、私は後方支援と負傷者の対応が中心だったからね」
「そっか。……って、負傷者の対応?」
「うん。あっちの救護テントで」
リンクくんに問われて救護テントのある方を指さすと、その周辺に集まっていた人たちがこっちを見ていた。その中にはさっきまで身体を起こせずに痛みに苦しんでいた人もいるけど、どうやら薬が効いたらしい。良かったとほっとしてこちらを見ている人たちに笑顔で手を振ったら、わーっと声が上がった。何だか凄く騒ついてるぞ? 何で? ま、元気ならいっか。
「うん。元気になって良かった!」
「ソウデスネー」
「ん? リンクくんどうしたの?」
「ナマエさんの優しさは俺が独り占めしたいって言ったのにー」
「こら。そんなこと言わないの! 相手は怪我人だよ?」
「わかってますー」
いつにも増して拗ねるリンクくん。
口布に隠れている部分は見えないけれど、きっと『へ』の字になってるんだろうな。思わずくすくす笑ってしまったら、不服そうな目で見られたので、余計に笑ってしまう。
「拗ねないでよ、リンクくん」
「拗ねてません。妬いてますー」
「えぇ……どこに妬く要素があるの……」
「(ホント、仕方ないなぁ)……ナマエさんは可愛いんだよ。それで美人で優しいんだよ」
「ちょっ、急にどうしたの?」
「しかもちょっとした仕草とか色っぽいし。忍びスーツはエロいし。近くに寄るとイイ匂いするし」
「リンクくん? 何か不穏な空気!」
ねぇちょっと目が据わってませんか?
近づいてくるリンクくんに、危険を感じる。
エロいって言うな!
前から思ってたけど『リンク』にそういう発言させてるって事件だよね! 目の前のリンクくんだって、出会った時はそういうトコロ控えめだったよ!
「だからさ、俺は心配。ナマエさんがいつか俺を置いていってしまうんじゃないかって」
「ええぇ……散々、私に色々言わせておいて? そういうこと言う?」
「信じてるのと心配なのは共生するんだよ」
「何その哲学的な感じ……」
あーこれ……何時ものお遊びだ。
時々リンクくんが始めるやつ。
牽制しなくったって、私はリンクくんだけなのに。
うん。ムカムカする。
「リンクくん。ちょっとそこで止まりなさい」
すとんっと急激に声の温度が下がる。
笑顔だけど、笑ってないからね。
「は、はい」
私の冷たい視線にびくっとしたのか、リンクくんが急に大人しくなる。
「リンクくんは私が他の男の人の方を向くかもってことが心配なの?」
「うっ……そうです……」
「ふぅん……へぇ……」
顎に手を当ててリンクくんの周りをゆっくり歩く。
さっきまで不穏な空気を出してたのはリンクくんの方だったけど、今度は私の番だ。ゆっくりとリンクくんをじーっと見ながら一周。その間にリンクくんが『これはマズイ』って顔になったけど、もう遅い。
「リンクくん」
「……はい」
にっこり笑って、ぐっと距離を近づける。何されるんだろうって焦ってるのが見てとれる。そんなリンクくんには何も言わないまま、ぐいっとリンクくんの忍びマスクのマフラーを引っ張って、口布越しにキスしてやった。途端に救護テントの方から悲鳴のような雄叫びのような声が上がったけど、気にしない。
「ナマエさん?」
「黙って」
さらに今度はリンクくんの口布も私の口布も引き下げて、リンクくんの頬を両手で引き寄せて、リンクくんの目をじっと見つめたまま深く口づける。逃げるリンクくんの舌を追いかけて絡めて、最後にぺろっと唇を舐めてやった。
阿鼻叫喚か。
さらにすごい声が聞こえてくるけど、き・に・し・な・い。
目の前のリンクくんが耳まで真っ赤になって動揺してるのも、知ーらない。
「こんなキスするのはリンクくんだけなんですけどー。心配なら仕方ないねー。人前でキスするの恥ずかしいの頑張ったのにー。酷ーい。キスももうしなーい」
「え、待って! 嘘だよね? それ、嘘だよね?」
「知ーらなーい」
「ねぇ、嘘だよね? ごめんっ! ナマエさん、ごめんっ!」
「ふんっ」
私の気持ちが誰にあるのか実は全然疑ってないくせに、試すようなことするのが悪いんだからね! 結局その後の三日間、徹底的に触れ合うのを避けてたら最終的に泣かれた。