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 目を覚ました後にリンクくんとルージュ、それにプルアから聞いた事の顛末をまとめると、ルージュに浄化してもらった後、意識を失った私は一向に目を覚ますことがなかったらしい。(またそういうオチか)リンクくんは私が『回生の祠』で半年目を覚さなかった時のことを思い出して随分落ち込んだみたいだけど、そのままゲルドの街に留まっても埒が開かないので、プルアに現状を相談するために監視砦に戻り、それでも目を覚さないのでやむを得ず私の身柄をプルアに預けたまま、ハイラル城で目撃されたというゼルダ姫の真相を確かめに行ったそうだ。
 私の『ゼルダ姫は地上にいない』という言葉を信じてくれていたから、罠だとわかった上で。
 そこで、ハイラル全土に出現していた偽ゼルダの真相を知り、魔王ガノンドロフと対峙したという。完全復活には至っていないものの、ガノンドロフの力は強大で、過去の封印戦争で魔王に立ち向かった賢者全員で立ち向かうため、五人目の賢者の手がかりを探そうと言うことになったそうだ。

 賢者は全部で六人いた。
 時の賢者はゼルダ姫。
 チューリくん、シド、ユンくん、ルージュが四人の賢者で、残る五人目がどこかにいるはずだ、と。

 そこまでの話を、リンクくんに膝枕して頭をよしよししてあげながらじっくりと聞いた。久しぶりのリンクくんの髪の感触。ふわふわだわ。

「そっか……そこまで辿り着けたんだね」
「うん。ラウルの右手、みんなが賢者となる度に指輪に紋様が刻まれていたから、ルージュが雷の賢者となった時点でもう一つ残っていた中指に該当する賢者がいるとは予想してたけど、やっぱりそうだった。時の賢者がゼルダ姫なら、ラウルと共に戦ったもう一人が五人目の賢者だろうって」
「そうだね。みんなで集まって知恵を出し合えば、未来が開けるね。頑張ってるねリンクくん」
「俺、俺の出来る限りだけど、頑張ってるよ。労ってよナマエさん」
「もちろん。偉いね、リンクくん。ありがとう。ハイラルのため、ゼルダ姫のために頑張ってくれて」

 ちゅっとリンクくんのこめかみに口付けして、またよしよしと頭を撫でるとリンクくんが気持ちよさそうに目を細める。やっぱり大型犬みたいだ。かっこいいのに可愛いなぁ。思わずクスリと笑うと、リンクくんにちょっと拗ねたような目で見られた。

「ナマエさんの顔が犬を撫でてる時と同じ顔になってる」
「だって、本当にでっかいワンコみたいで。かーわいー。あーあ。何でこの気持ちを忘れてたんだろう。こんなに可愛いのに」
「可愛いと言われるのは不本意だと言ってるのに!久しぶりに可愛いを連呼だね!俺もういい歳だと思うんだけど……」
「美人さんだなとも思ってるよ?」
「……ナマエさんの方が美人だし綺麗だよ」
「ありがとう。リンクくんも綺麗だよ」
「ぐっ……まだ言う……でも」
「?」
「……ナマエさん……いつものナマエさんが戻ってきてくれて良かった」
「あー……何だか色々と迷惑かけちゃったよね。力になるどころか足を引っ張ることになってごめんなさい。ところどころちょっと欠落してて覚えていないところが無きにしも非ずなんだけど。びっくりするぐらい、言動も行動も支離滅裂だったね……」
「クィンギブドと戦う時には丁度良かったかもしれないけどね」
「クィンギブド!うえぇぇ……あの超巨大な蛾と骨っぽいヤツ!思い浮かべるだけで鳥肌立つっ……」
「そうそうその反応がナマエさんだよね。言い方は悪いけど、戦ってる途中にへらへら笑いながら正確にギブドたちを射抜いていたのは正直言うと少し怖かったよ……」
「うぅ……この歳になってまで新たな黒歴史を刻んでしまうとは……!」

 リンクくんの言葉に遠い目になってしまう。正気の状態ならきっと、ものすごい勢いで矢の無駄撃ちをしてたであろう自信がある。

「ところでナマエさん、どうやって元のナマエさんに戻れたの?最初は浄化を進めることで魔王の力だけが消えていくと思ってたけど、途中からは浄化してるのに、どんどん様子がおかしくなってた。俺のこと好きなのかな?って聞かれた時には本当に泣くかと思った」
「……リンクくん、わりと泣いてない?」
「ナマエさんに泣かされてるんだよ!」
「そ、それはすまぬ」
「……それで、目を覚さなかった間に何かあった?」
「んーそうだねぇ……いまいちよく覚えてないんだけど、多分、最後に少し残った『魔王の力』に負けないように、ゼルダ姫が助けてくれたんだと思う」
「ゼルダ様が……?」
「うん。目を覚ます前に、ゼルダ姫と話していた気がする。それで、自分が自分のまま、目覚めることができたんだと思う。プルアに顔オクタ状態にされてて一瞬で何を言われていたのか、吹っ飛んだけど」

 そう。確かにゼルダ姫と話していた気がする。一方通行ではなくて、会話が成り立っているかのように。私が知っている『物語』通りなら、そんな事はあり得ないはずなのに。
 
「リンクくん、もうゼルダ姫が何処に行ったかわかった?」
「過去……遥か古の封印戦争の時代だよね」
「じゃぁ、今、ゼルダ姫がどうなっているかについては?」
「それはいまいち確信が持ててない。インパに言われて地上絵を幾つか回ってラウルとソニアにゼルダ様が会ったという記憶には触れたけど、未だ断片的すぎて」
「そっか」

 それなら祠の全数解放を目指しつつ、地上絵を全て回った方が良いだろう。私自身、覚えている内容が曖昧だし。何なら先に五人目の賢者を見つけられるよう『知って』いることを話しても構わない。

「リンクくん、私に五人目の賢者のこと、教えて欲しい?」
「教えてくれるの?」
「リンクくんが望むなら」
「うーん……」

 私の言葉に、横向きに寝ていた身体を起こしてリンク君が左手で私の頬に触れる。

「実はもう、目星がついてるんだよね」
「え、そうなの?」
「空にも、地上にもそれらしきものはなかった。だから、地下だろうなって」
「うん」
「地下は瘴気に溢れてるから、十分に準備してから行こうと思う。その前に、地上と空にある祠を全部開放したい。それに……魔王と再び戦う日に備えてマスターソードも探したい。だから、デクの樹サマのところへ行こうと思うんだ」
「うん。そっか」

 頬にふれるリンクくんの手に自分の手を重ねて目を伏せる。

「じゃぁ、一つだけ。デクの樹サマに会いに行くのは良いと思う。ただ、コログの森へは大穴を通って地下からじゃ無いと行けなかったと思う。デクの樹様の中ではファントムガノンと戦うことになる。バクダン花と矢を十分に持って行ってね」
「わかった。ありがとう、ナマエさん」
「ん……色々迷惑かけちゃったからね。自己満足の罪滅ぼし」
「ナマエさん……」
「それに」

 ふぅっと息を吐いて顔を上げてリンクくんの目をまっすぐに見つめる。

「独りにしてごめん」
「っ!……ホントだよ。もうナマエさん無しではいられない身体になったから責任とってよ」
「うわぁ。もの凄く色んな誤解を招きそうな言い方するね!」
「やっぱりもうどこかに閉じ込めるしか……」
「やめようね。怖いから」
「あはは」
「『あはは』じゃないよ!」

 笑いながら、やっと本当の意味で気持ちが落ち着いてきた気がする。

「リンクくんは強いなぁ」
「……一番辛かった時にナマエさんの存在に救われたからね。気持ちの折り合いをつけることができたのは、ナマエさんがいてくれたからだって思ってる。だから、ちょっとやそっとのことじゃ負けないよ。まだナマエさんを奥さんに迎えられていないし」
「うっ……それ、婚約の話……いいの?そのままで」
「……どういう意味?」
「いや、だって私、色々迷惑かけちゃったし……」
「それと婚約とは別の話だよ。それとも……俺への気持ちが消えている間に、他に気になる男でもいた?」
「!いないよ、そんなの(ファントムガノンは瘴気の塊だし!きっとあの妙に惹かれたのも魅了の罠だったんだろうし!)」
「ナマエさんに他に好きな男ができたら俺……どうしよう。ナマエさんの幸せを願える気がしない」
「だ、大丈夫だよ!リンクくんのこと大好きだから!」
「そう言っておいて俺のこと好きかどうかわからなくなった」
「うっ……それを言われると……」

 悲しそうな顔で言われて、言葉に詰まる。どう返したらいいか困ってしまってリンクくんをじっと見つめていたら、不意にリンクくんがにっこりと笑顔になった。

「もうこれはやっぱり魔王を倒す前にナマエさんに結婚してもらうしかないか。そうだ。二人で暮らすための家を建てよう。ウルトラハンドを使えばエノキダの言ってたマイホームユニットの組み合わせも自由自在だし……よし。ナマエさん」
「は、はい」
「イチカラ村へ行くよ。そこで家を建てる。完成したら、これまで頑張ったご褒美をたっぷり頂戴。もちろんいいよね?」
「わー……有無を言わせない笑顔だぁ」
「いいよね?」
「は、はぁい……」

 美人の流し目の色気が凄すぎてホント困るよ……。