リンクくんは小柄だけど筋力が凄い。
いや、むしろ筋力が発達した分、身長があまり伸びなかったということも考えられる。だけど出会ってから数年の間に少しずつ目線が高くなっていっていることを考えたら、もしかしたらハイリア人にも成長期というものがあって、リンクくんはこれから身長が伸びるのかもしれないなぁとも思う。
で、なんでこんなことを考えているのかというと、今現在、リンクくんのために浴衣を縫おうとしているからだったりする。今の身長から十センチ……十五センチぐらい調整できるようにしておけば良いかな。
ベースになる布地を広げてうんうん唸っていたら、背後からぽんっと肩を叩かれた。
「ナマエさん、どうしたの?」
「ああ、リンクくん。おかえりなさい。ゼルダ姫との打ち合わせは終わったの?」
「うん。今日は簡単な確認だけだったから。……それは?」
「ああ、これ?リンクくんに『浴衣』を作ってあげようかなと思って」
「『ゆかた』?」
「私の元の世界にあった服の一つなんだけどね。普段着によし、夕涼みによし、寝るときによしで使い勝手がいい服なんだ。足首まで丈があるから戦いには向いてないけどね。しばらくはハテノ村にいる予定だけど、今度また別荘に滞在するときの部屋着にどうかなと思って」
「へぇ……この布で作るの?」
「そう。ヴェント・エストに頼んで涼しそうな生地を用意してもらったの。リンクくんの目の色に合わせて、青系ではあるんだけど、空色じゃなくて紺色をちょっと調整してもらってね。私のイメージだけど、元の世界で言う『藍色』っていう深みのある青を用意したんだ」
「近衛の服とも違う青なんだね。そんな風にこだわってくれるなんて、ナマエさんの愛を感じる」
にこにこと嬉しそうなリンクくん。
生地に指を滑らせながら、興味深そうに感触を確かめているその様子に顔が熱くなるけれど、ここは冷静にいこう。いちいち反応するからいつもリンクくんに満面の笑みで食べられちゃうんだから。
……いや、別に嫌じゃないんだけど。
「私の記憶からなんとなくの形で作っていくから全く同じものは再現できないと思うけど、浴衣姿のリンクくんを見てみたいんだよね。出来上がったら、着てみてね」
「うん。もちろん。ナマエさんの分もあるの?」
「私のも作るつもりだよ。生地はまだ出来上がってないから、先にリンクくんの分だけ作ろうと思って」
「ちなみにナマエさんの『ゆかた』は何色?」
「白地に『姫しずか』を描いたものにしようか、リンクくんとお揃いの藍色に黄色い帯を合わせようか迷ってる」
「それって俺の色?」
「……うん」
「(無茶苦茶照れてる!)それなら絶対、藍色に黄色の『おび』?というやつで作って。姫しずかも可憐で清楚なイメージだけど、ナマエさんには俺の色をまとって欲しいな。ね。俺だけのナマエさん」
「んんっ」
「……ナマエさん可愛い。リンゴみたいに真っ赤」
ちゅっとこめかみにキスしながら言われて、やっぱり冷静でいるなんて無理だった。その動揺を察したのか、にこにこしたまま今度は頬に手を添えられて、額に、まぶたに、唇にと順番に口付けられる。
「リンクくんっ、ちょっと……」
「ナマエさんがあんまり可愛いから食べたくなっちゃった」
「『なっちゃった』じゃないよ。帰ってきたばかりでしょ?疲れてないの?ゼルダ姫との打ち合わせの前に、学校で先生やってきたんでしょ?ね。リンク先生?」
「ん……」
「……どうしたの?」
「ナマエさんに『先生』って言われると何だかぐっとくるなぁと思って」
「……私の戦いの『師匠』なのに何を今更」
「何かこう『先生』っていう響きがね?ほら、ね?」
「何が『ほら、ね?』なの。ちょっと、ねぇ……何だか強欲な顔してる。ダメだからね」
「えー何がダメなの?俺はナマエさんとキスしたいだけだよ。ね、ナマエ先生。俺とキスしよう?」
「そういう言い方する時にキスだけで終わった試しがないんですが」
「さすがナマエ先生。俺のことよくわかってる!」
「『よくわかってる!』じゃなーい!どうしたのリンクくん、いつにも増しておふざけが過ぎませんか!?何か急に変なスイッチ入ったね!」
「そうかな?」
「そうだよ」
「ナマエさんが俺のために『ゆかた』を作ってくれようとしてるのが嬉しくて浮かれてる自覚はある。あと、ナマエさんの『先生』呼びにもグッときた」
「前者はともかく、後者は何で!」
「さぁ……なんでだろう?とにかくなんだかグッときたんだよ。そこに理由はいらない!あえて言うなら、ナマエ先生に手取り足取り色々と教えられたい!」
「もはやどっちが先生かわからないし、何か言い方が如何わしい!」
「だって……ナマエさんは知らなかったかもしれないけど、百年前のハイラルでナマエさんが訓練兵たちの鍛錬に付き合ってあげてた時『そういう目』で見てた奴いたよ?」
「え?どういうこと?」
「『ナマエ先生に優しく色々教えられたい』って」
「えー……そんなに厳しかったかな?結構遠慮してたんだけど……」
「違う、そう言う意味じゃない。優しい『先生』に弱いってことだよ。生徒の立場でも、同僚の立場でもね」
「訳がわからないんですが……」
「うん。いい。ナマエさんはそのままでいいや。ナマエさんだしね。俺が頑張れば良いだけの話だから。それに今の時代だと百年前みたいに男世帯に近づくことも状況的にはあんまり無いだろうしね」
「ますます訳がわからない……」
リンクくんはにこにこして自分だけで納得してるけど、私には何がリンクくんの琴線に触れたのかさっぱりだ。
とにかくちょっと怪しい方向に行きそうなリンクくんには一度落ち着いてもらって、私は机の上に広げた浴衣の布地をくるくると皺にならないように巻いて、片付ける。リンクくん普段はとても紳士的だけど、スイッチが入るとすぐにえっちくなるからなぁ。
そんなことを思いながら布地をクローゼットにしまおうと立ち上がったら、大人しく私の様子を見ていたリンクくんに後ろから抱きつかれた。
思わず浴衣の生地を落としそうになって慌てて持ち直す。
「ナマエ先生、俺とデートしませんか?」
「え、ちょっと!こらっ耳を舐めるなぁっ!」
「あはは。ナマエ先生、真っ赤!可愛い」
「その『先生』っていうの何時迄続けるの?」
「うーん……俺の気が済むまで?」
「楽しそうだねリンクくん!」
「うん。楽しい。ナマエ先生を困らせてるのが楽しい」
「わ……悪い奴だ。悪い奴がここにいる!」
「悪い奴、嫌いじゃないでしょ。ね、ナマエ先生」
ふぅっと耳に息を吹きかけられて、背中にぞくっと甘い痺れが走る。今日はどうやってもこのまま続けたいらしい。
それなら、と。
私も腹を括ろう。
リンクくんの腕から抜け出して布地をテーブルに置いてからくるっとリンクくんに向き合い、そのままリンクくんの目を見ながら首に腕を絡めた。
「リンク先生ったら、同僚にそんな風に迫っちゃうなんて悪い人ですね。子供達には秘密ですよ?」
「!」
「手取り足取り、色々教えてあ・げ・る」
言いながら出来る限り妖艶な雰囲気を出そうと頑張って唇を重ねる。くっそ恥ずかしいっ!内心自分自身に何キャラだよっ!と悶えながらも冷静に。
離れ際にわざとぺろっと唇を舐めたら、ぼんっと幻聴が聞こえるぐらいの勢いでリンクくんが赤面し……あーあ。イケメンが台無しだネー。
「……リンク先生。はい、これあげます」
「?」
ちょっとやり過ぎたかなってバツが悪くなって目を逸らしながら綺麗な布をリンクくんに渡す。
渡されたリンクくんは不思議そうな顔だけど、手に持った布を不思議そうに見たまま動かないから、その手を握ってリンクくんの顔の前まで持ち上げる。
「鼻血出てますよ。リンク先生」
「〜〜〜っ!」
つんつんっと鼻先を指でつつきながらの私の言葉に、さらに真っ赤になって慌てて鼻を覆ったリンクくんから声にならない悶え声が聞こえた気がした。
年上を揶揄うからこういうことになるんだぞ!