英傑たちの集まりは二月に一度、定期的に開催されていた。厄災封印戦から半年。前回の集まりは私が目覚める数日前に開催されたばかりだったと言う。つまり、次回の集まりまでにはかなり時間がある。
それなら、と。
魔物討伐がてらテラコの部品探しをしようと言うことで、私は回生の祠で眠っている間に鈍ってしまった身体を鍛えようと、リンクくんに鍛錬の相手になってもらっていた。回生の祠で半年眠ってたし、目を覚ましてからもハイリアの服を着てたから久しぶりに忍びスーツを着たことになる。やばい。ちょっとキツくなってるかも……。
ちなみに、コログの森では気持ちが盛り上がってしまったけれど、やっぱり全部思い出してからじゃないとイヤだなって思い直したこともあって、リンクくんとはキス以上のことはしてない。
うん……本当にごめん。
早く思い出せるように頑張るよ。
手をぎゅっと握りながら『大丈夫』って言ってたけど、全然大丈夫じゃなさそうだったよね……ごめん。
実は、気持ちの持ち様がうまいこと作用したのか、ちょっとずつのキッカケで思い出したことのピースがつながり始めたのか、日に日に思い出すこと、繋がり始めたことが増えてきた気がしている。「ここでナマエさんがみんなに見せつける様にキスしてくれたんだよ!」とリンクくんに言われて、とんでもないことしてるな! 私! と思いつつ、ハテノ砦でキスした時は、その時のことがしっかり思い出せた。ヴァ・ルッタのことも。
残念ながら操り手だった英傑のミファー姫のことはその時には思い出せなかったけど、ハテノ砦の戦いでヴァ・ルッタが大活躍だったこと。ゼルダ姫の力強い演説があったことを思い出した。そして、ゼルダ姫自身とリンクさんのことも。
封印の力が目覚めて良かったと言うことも、私が異世界からの『渡り人』で、『物語』としてこの世界を『知って』いることも。
「ナマエさん、脇がガラ空き。切り返しもっと素早く!」
「はい!」
「さっきの突きは良かったよ。その調子で行こう!」
「はい!」
「武器切り替える時はもっと間合いとって! 直ぐ近くなってるよ!」
「はいっ!」
得意武器を制限なしで幾らでも使っていい実践形式の訓練。次々と繰り出されるリンクくんからの攻撃をかわし、流し、死角をついて反撃する訓練。命に関わることだから、リンクくんも私相手だろうと手を抜かない。どんな相手であれ、命がかかっていることを忘れちゃいけないって。
今の目標は五回以内の攻撃で相手をダウンさせること。魔物相手ならば消滅するまで。人が相手なら……戦闘不能にするまで。
あえて人相手の訓練もしているわけじゃない。もともと……リンクくんに訓練してもらうことになったキッカケも思い出した。この世界線とは繋がっていない未来のイーガ団の幹部男……百年後の世界で再会したことはなかったけど、会ったら絶対許さんっ!
「おっと! 注意力散漫」
「わっ、わわわっ!」
力んで攻撃が大ぶりになったらあっという間にリンクくんに投げられた。空中でくるっと一回転して地面に着地する。うん。この元の世界ではあり得ない身体能力の伸びと重力感よ! 今の着地は十点満点中十点だね! って悦に入ってたら、リンクくんにはぁっとため息をつかれた。
「ナマエさん、集中できてないね。このままだと怪我するから今日の訓練はおしまい」
「……はぁい……ごめんなさい」
「どうしたの? 何かあった?」
本当だったら凄く怒られるところ。
訓練に集中できてないって。
だけど訓練を始める時にはちゃんと集中してるから、途中でこうなったところで早々に切り上げてくれる。
そのコントロールもしてもらってるのが申し訳ないところではあるのだけど、頭の中の高揚感が、私の冷静さを奪ってる。軽くハイの状態になっているとわかってくれているリンクくんに甘えてしまっている。
「何だか、日に日に思い出すことが増えていて、訓練中もふっと色んなことが頭をよぎちゃって……本当にごめん。危ないよね」
「そうだね。これで怪我してたら元も子もないから、休養日を取ろうか」
「うん……年上なのに頼りなくてごめんね」
「いいよ。戦いに関しては俺の方が大先輩だし。その分、別のところでは甘えさせてもらうから」
にっこり。
こう言う時のリンクくんは本当にいい笑顔になる。
「……今日の報酬は何がいいの?」
「一緒に温泉に入って後ろからぎゅーかなぁ」
「ひ……人がいないところならいいよ」
「やった! じゃぁ、さっそくワープしよう」
訓練直後でまだ汗も引いていないと言うのにリンクくんは慣れた手つきでプルアパッドを操作すると、地図の中からワープマーカーの一つを選択する。この世界では厄災を封印した後も、シーカータワーは起動したままで、ハイラル各地にわりと自由にワープができるらしい。プルアパッドは正確にはシーカーストーンと同じものでは無いけれど、プルアさんとロベリーさんが何とかしたらしい。さすがプルアさん……。思い出した直後はプルアさん何人いるの? って混乱したけど、そのうち繋がりがわかって落ち着いた。
とにかく、そんなわけでプルアパッドがこの世界でも使えるらしい。……らしい、というのは、私がまだ特定の場所しかリンクくんに連れて行ってもらっていないから。
「ナマエさん、来て」
「ん……」
にこにこしながら手招きするリンクくんに素直に近づくと、腰に腕を回されて抱き寄せられる。こんなにくっつかなくてもワープ出来るって、リンクくんは知ってるのかな? 何時も聞こうと思ってついつい忘れていたことを今日こそは聞いてみようと思う。
「ねぇリンクくん、ワープする時って別にくっつかな「はい、ワープ!」」
全部言わせてもらえなかった。
これ知ってるな。
この世界に来て、色んな人がワープしてるの見て察したのに黙ってるな。
青白い光に包まれながら、ま、いっかと思った私も私か。
***
到着した先はド根性ガケふもとの温泉だった。
広々して開放感もあるのに、アクセスの悪さから滅多に人がいない温泉。
今日もやっぱり、人影はなかった。
「はい、到着」
ワープする時と同じご機嫌な声でリンクくんが言う。
プルアパッドをしまうと、そこに設置してあったワープマーカーも一時片付けてしまった。いつもの事なんだけど、帰り際に再設置するからいいんだって。そのまま置いておけばいいのに。
そんなリンクくんを横目に、私は忍びマスクとマフラーだけを外して、そのままお湯に入る。
「あー……生き返るー」
気の抜けた声が出るのは仕方ない。
運動の後の温泉最高っ!
汗を流すためにざぶんっと頭までつかって、そのまましばらく泳ぐ。少し先で顔を出したら、リンクくんは忍びシリーズを全部脱いで下着だけになっているところだった。いいなぁ。リンクくんは。素肌でお湯に浸かった方が絶対気持ちいいもんね。
だけど、しっかりリンクくんのことを思い出すまではキス以上のことは無しと我慢してもらってる手前、文句は言えない。さすがにそれで文句を言ったら最低だ、私。
「ナマエさーん。報酬ちょうだい」
「こっちまで来たらねー」
流れに任せてぷかぷか浮いたままお湯を堪能する。
はぁー気持ちいい〜と思ってたら、
「来たよ」
早っ!
びっくりしてお湯に沈んだ。
そしたら直ぐに引き上げられた。
「ぷはっ……」
「ナマエさん、大丈夫?」
「溺れる原因になった人に助けられた…」
ポタポタと前髪から垂れるお湯に目をぱちぱちやってると、不意にリンクくんに顔を覗き込まれてキスされた。最近……キスしてもいい? って聞かなくなったなぁ……なんて頭の片隅で思う。
「ナマエさん、余計な事考えてる。俺のことだけ考えてよ」
「んっ……」
後ろ頭に手を添えられて、もっと深いキス。
考えてたの、リンクくんのことだけどね!
キスより先のことはまだ思い出せないけど、これ、私絶対たくさん食べられてたな。
訓練の報酬は、リンクくんが希望するご褒美と、リンクくんとの日々をどこまで思い出したかの確認。触れ合うことでたくさん思い出すこともあれば、まったく何も思い出さないこともある。
リンクくんに言わせると、私はリンクくんと過ごしてきた日々のことをだいぶ思い出してるらしい。だけど、全部じゃないって。
そこはちゃんと嘘つかないんだって、その誠実さに惚れ直したのは内緒にしとく。何だか私ばっかり好きになってて悔しいから。