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 人だかりの中で弓を構えているナマエさんは、どうやら風船の的を矢で射抜くゲームをしているらしい。
 それを直ぐそばで見ているのがリーバルだった。

「まったく情けないね。幻影だか何だか知らないけどそんなのに不覚をとって半年も眠りこけるなんて、寝坊助にも程があるんじゃないの? どうせ満足に弓の練習もできてないんだろ? この僕が直々に見てあげるんだから、弟子として恥ずかしくない結果を見せてくれるよね?」
「(弟子? 私がこのトリの?)いや、ちょっとだからって何でこんなに難易度上げて来るんですか! 少しは手加減してください!」
「その話し方は気持ち悪いからやめなよ。君、もっと失礼なやつだっただろ」
「だーっ! 誰がっ!」
「ほらほら、次の的が上がるよ! 全部撃ち落とせなかったら君の大好きなスイーツセットは全部僕のものだからね」
「何なのこのトリ! 横暴すぎる!」
「トリじゃなくて『リト』ね。君、頭まで悪くなったの?」
「むーかーつーくー!」

 ナマエさんの怒った時の声が聞こえたかと思うと、直後に風船が続け様に破裂する音が聞こえた。そして……次に聞こえてきた言葉に思わず固まった。

「リーバルくんはいっつも荒療治すぎ!」
「ははは。僕の名前、やっと正解したね。思い出したなら別に構わないだろ」
「えーえー、思い出しましたとも! リーバルくんのせいでお城の兵士の皆さんに顔が割れてしまったこともね!」
「おかげで気兼ねなく城内を散歩できるようになってたじゃないか。感謝してほしいぐらいだね」

 ふふんっと勝ち誇ったようなリーバルの声が聞こえる。まさか……本当に?

「あ、リンクくん。おかえりなさい」
「ああ、君か。息吹の勇者。それに……姫にリンクもいたのかい。息吹とリンクは相変わらず双子みたいだねぇ」
「リーバル、どうして城下町に? 英傑の集まりはまだ先のはずですが……」
「どうして? 姫が欲しがってるものを見つけたからわざわざこの僕が持ってきてあげたのさ。ほら、これ」
「これは……もしかしてテラコの部品ですか?」
「多分、だけどね。あともう少しなんだろ?」
「ええ……ありがとう、リーバル!」
「もっと感謝してくれてもいいんだよ」

 リーバルはやっぱりリーバルだ。
 会うのはナマエさんが倒れて以来だから半年ぶりだけど、相変わらずの調子に思わず苦笑する。だけど今はそこじゃない。

「ナマエさん、リーバルのこと思い出したの?」
「うん。多分。全部かどうかはわからないけど、弓の練習をしてた時に絡まれて、無理難題出されて、馬鹿にされると悔しいから頑張ってたらいつの間にかハイラル城の兵士の皆さんに顔が知られるようになっていたという……。その流れを思い出した。リトの英傑で、ヴァ・メドーの操り手だったってことも」
「……そっか。じゃぁ、今リーバルと話してる女性は?」
「リーバルくんが『姫』って呼んでるってことは……ゼルダ姫?」
「そう。正解」
「じゃぁ、隣にいるあの兵士姿の彼はリンクくんの双子? 兄弟か何か? 顔そっくりだね」
「いや……あれは、違う。彼も『リンク』なんだ」
「……一族で金髪碧眼の美形はみんな『リンク』って名付けるのが流行ってたの?」
「そういうことじゃないんだけど……。つまりナマエさんはゼルダ姫のこともリンクのこともわからない?」
「うん。わからない」

 気持ち良いぐらいきっぱりはっきり言われて、途中から話を聞いていたゼルダ姫とリンクが残念そうな顔になる。リンクお前……半年の間にだいぶ表情豊かになったな。

「ナマエさん、どうやってリーバルに会ったの?」
「会ったというか……宿屋の窓から街を眺めてたら、『懐かしい顔があるね』なんて声掛けられて、ちょっと窓から身体を乗り出したら、拉致られた」
「拉致だなんて人聞きが悪い。『どちら様ですか?』なんてふざけたことを言うから、それならいつもやってた訓練で思い出させてやろうとしただけじゃないか」
「だからっていきなり窓から連れて行くのは非常識でしょうが!」
「ふん。バランス崩して窓から落ちそうになってたヤツが何を言っているんだか」
「ぐっ……だってリーバルくんが!」
「ナマエが鈍臭いだけだろ。僕のせいにするんじゃないよ」
「むーっ!」

 リーバルの物言いに、ナマエさんが頬を膨らませて抗議する。バシッとリーバルを叩こうとして、逆に頭をはたかれてた。

「痛っ! だからそれ、地味に痛いって言ってるでしょうが! くそぅっ! 羽毛むしってやるっ! 抱き枕にしてやる!」
「ははは。そんなに羽毛が欲しければそこの君の恋人に羽毛服を出してもらいなよ」
「んんっ……? どういうこと?」
「……何だよ。まさか君、息吹の勇者のことがわからないのかい? 彼が君の持ち物を管理してたじゃないか。君がポーチを持ってないから」
「えーっと……」
「まさか……本気かい? 息吹の勇者は君の恋人だろ? 別れたのかい?」
「別れてない! 別れてないからね! ナマエさん!」
「う、うん……多分?」
「多分じゃなくて……!」

 思わずぎゅっとナマエさんを引き寄せて抱きしめる。

「ちょ、待って人が見てる!」
「別れてないから!」
「わかった、わかったってば! だから離して!」
「……ん」

 渋々腕を緩めると、真っ赤な顔で睨まれた。この前は自分から抱きしめて欲しいって言ってくれたのにな……腕の中から消えた温もりに寂しくなる。

「僕たちは一体何を見せられてるんだろうね。まぁいいや。ナマエ」
「ん、何? リーバルくん……わわっ、うぉっ……モフモフ!」

 紺色の大きな羽がナマエさんの身体を包み込む。
 リーバル、お前……!

 ぎゅーっとナマエさんを抱きしめたと思ったら、そのまま軽くナマエさんの頬に嘴を寄せた。ちょっと待て、それは友人の域を超えてないか?

「おかえり、ナマエ」
「お、おう、ただいま?」
「息吹の勇者に飽きたらいつでもリトに来るといい。君に弓を教えるのも、君の歌を聞くのも嫌じゃないからね」
「えぇ……無茶苦茶ディスってくるのに……?」
「ディスる? 何それ? もしかして苦言ばかり言っているとでも? 僕は君の適当すぎるところを締めてあげてるだけだよ。君、やればできるのに勿体無い」
「はぁ……褒められてるのか、貶されてるのか……」

 何だかんだとリーバルに抱きしめられたまま普通に会話するナマエさん。顔色が変わっていないのが唯一の救いだろうか。

「……いい加減、離してくれないかな。リーバル」
「おっと。悪かったね」
「(全然悪いと思ってないなこいつ)……」

 俺の目が据わっていることに気づいているだろうに、リーバルはそんなことはお構いなしな様子でようやくナマエさんを離す。

「それじゃぁナマエ、またね。次会う時までに今度は速射の訓練もしておくんだよ」
「ええー!」
「うまく出来たらマックスサーモンムニエルをご馳走してあげる」
「ええ! じゃ、頑張る!」

 餌付けされてる!

「ナマエ……リーバルに餌付けされてますね」
「……そのようですね」

 ゼルダ姫とリンクにも同じことを思われてるよナマエさん!