06

 元の世界に戻れる手がかりなど欠片ほどもないまま私はまだ厄黙の世界にいる。そんな中、時は流れ、プルアさん達がハイラル平原に現れていたシーカータワーの復旧に成功した。

 今日は、ゼルダ姫、プルアさん、ウルボザ様、リンクさん、そしてテラコに同行する形で私もシーカータワーのところまで来た。
 ちょっと待って本当にどうして私はメインキャラクター達と一緒に過ごす機会が度々あるの。本当にそれでいいのかハイラル王国。何度目かわからないツッコミとともに小さくため息をつく。シーカー族に私のことを探らせて、それでも一切情報が出てこなかったって、不信がってる人がいるのを知ってるんだぞ。
 むしろその反応が正解じゃないのか。

 そんなことを思いつつ、目の前で起動したシーカータワーの青い光を眺めながら、今回のハイラル平原のタワー復旧とともに各地で地上に出現しているであろう他の地域のシーカータワーのことを思う。それぞれのタワーを復旧させれば、シーカーストーンの機能もより幅広く使えるようになるだろう。   
 私はタワーの機能がシーカーストーンと連動していると言うことは伝えたけれど、詳しい仕組みは私にはわからないから、ただそれだけの情報を元に解析を進め、実際にシーカータワーの復旧までこぎつけたプルアさん達研究者たちのことを本当にすごいと思う。
 ただ、シーカーストーンの機能をプルアさんが色々試している中、私は今更ながら一つの事実に気がついてしまった。

 ワープする時、くっついてなくても一緒にワープ出来るじゃんっ!

 ワープの度にリンクくんと密着していた事が今更ながら恥ずかしい。どうして私は体を離した状態でワープを試してみようと提案しなかったのか。ワープの度に凄くにこにこしているリンクくんに腰を引き寄せられてぎゅっと抱き締められるのが嫌じゃなかったって……そ……それは確かにあるけど。

「どうしたんですか、ナマエ。熱でもありますか? 顔が真っ赤ですよ」
「い……いえ、熱はないです。ちょっと色々思い出して一人で恥ずかしさに悶えているだけです」
「そ、そうですか」

 ごめんね、ゼルダ姫。心配してくれているのに、頭の中で考えているのはそんな事なんです。
 ゼルダ姫越しにじっと見てくるリンクさん。お願いだからリンクくんと同じ顔でそんなにまじまじと見ないでほしい。本当に恥ずかしくなる。

「こうして眺めてみると……壮観ですね」

 ゼルダ姫の言葉に視線をやれば、ハイラル平原が一望できる。百年後の世界ではシーカータワーの上でゆっくり景色を楽しむことはなかったけれど、なるほど確かに壮観だ。それに眼下には人の営みも見える。
 たくさんの命がそこで、確かな生を生きている。

「プルア……きっと貴女がいれば……」
「ゼルダ姫」
「……ナマエ?」
「ゼルダ姫にできること、ありますからね。姫にしかできない事が。他の誰でもない、悩んで、嫌と言うほど葛藤して、それでも諦めないでいるゼルダ姫は、間違いなく一緒に戦っていますよ」

 思わずゼルダ姫の手を取って、憂いを帯びた緑色の瞳をぐっと見つめる。どうか諦めないでほしい。遺物の研究も、修行も、ゼルダ姫がやってきたことに何一つ無駄なことなんてない。
 その想いが伝わるように、ぎゅっと手を握る。

「ナマエ、ありがとう」
「どういたしまして」

 にっこり笑うと、ゼルダ姫もようやく笑ってくれた。

「あ、イイね今の笑顔。姫さま、ナマエ、さぁもう一回。チェッキー」

 パシャっと音がして、シーカーストーンが一瞬光る。

「プルアさん、突然すぎるよ!」
「ふふん。ビビっと来た時に写しておくのがいいのよ。ま、とにかくこの調子で各地のタワーを復旧していけば、敵の動きが丸裸!」
「つまり、敵に先んじて戦略を立てられるって事だね」
「その通り! さーこの調子でサクサクやっていこう!」

 ウルボザ様の感心したような声にプルアさんのはしゃいだ声が応える。前に進める目処がたてば、それだけ気分も明るくなるだろう。
 その気持ちに水をさすようで悪いのだけど……。

「ところでプルアさん、ここからどうやって降りるの?」
「え、ああ……そういえば地上にワープマーカー置いてくるの忘れたわ。ちょっとリンク、これ持ってサクっと地上まで行ってきてくれる?」

 タワーの上から色々とウツシエで撮影していたプルアさんだったけど、満足したのだろうか。ひょいっとシーカーストーンと一緒にワープマーカーと思われる装置を渡されたリンクさんは、小さく頷くとシーカータワーの端まで行き、迷うことなく飛び降りた。
 程なくしてバサっとパラセールが開く音がしたけれど、いつ見てもこの高所から飛んでいくというのは心臓に悪い。これだけはリンクくんと一緒だろうと、極力避けてきた。だって怖すぎる。いくらそれなりに筋力がついたとは言え、避けられるものなら避けたい。
 リンクさんはリンクくんと同じように危なげなくパラセールを操っている。それはそうか。世界線は違えど、あの『リンク』なのだもの。運動能力半端ないわ。
 そんなことを思いながら地上遠く離れたリンクさんをぼーっと眺めていたら、程なくして地上にワープマーカーを設置したリンクさんが戻ってきた。ワープは使わず、シーカータワーの側壁を登って。
 ほんとすごすぎるよ……。

 でも……あれ?
 何だか困惑してる?

「ご苦労様。……どうしたの?」

 プルアさんの言葉に、リンクさんが無言でシーカーストーンを差し出す。何か、写っているようだ。

「ん? 何よ、アンタいつの間にウツシエ撮ってたの?」
「……俺ではないです」
「え、でもこれ……リンクじゃないの?」

 プルアさんの戸惑うような声に、ゼルダ姫とウルボザ様もシーカーストーンを覗き込む。

「うーん……リンクに見えますが……確かに、少しだけど大人びているような?」
「アタシにはあまり変わりないようにも見えるけど、言われてみればそうかもしれないねぇ。ナマエ、アンタも見てごらん」

 ウルボザ様に促されてシーカーストーンの画面を確かめると、そこにはハイリアの服を着た『リンク』の姿が写っていた。
 でも……あれ? これ、この『リンク』は……

「リンク……くん?」
「え……ナマエ?」

 私の知っている百年後のリンクくんだ。
 戸惑うゼルダ姫の声が聞こえたような気がしたけれど、シーカーストーンの画面に写っているそのウツシエから目が離せない。まるで何かを手元で見ていて、それに向かって何かを伝えようとしているような顔で写っている。

「え……何で、何で……?」

 百年後のリンクくんのウツシエが、どうして百年前のシーカーストーンのアルバムに?理解が追いつかなくて、ぎゅっと目を瞑ってからしっかり目を開けて、もう一度、シーカーストーンの画面を確認する。
 ……やっぱり、私の知ってるリンクくんだ。

「ナマエ、これは……リンクなのですか?」
「多分……私の知っているリンクくんです」
「! ……百年後の? リンクの子孫か何かということでしょうか? それにしては随分と……そっくりというか……」

 うかがうようなゼルダ姫の視線が痛い。
 ええ、だってご本人ですからね!
 世界線は違えども。

「ねぇ、ちょっと待って! さっきから何枚かウツシエが増えてるみたい。メモリが減っていってる」

 プルアさんがシーカーストーンを慣れた手つきで操作すると、一枚目の続きと思われるウツシエが増えていた。……というか、目の前で増えていっている。
 何これ……何が起こってるの?

 映し出されるのは、何とかして何かを伝えようとして必死になっているリンクくんの顔。何枚かそんなウツシエが続いた後に、はっとした表情のリンク君のウツシエが続き、そして次に映し出されたウツシエは、リンクくんが冒険手帳のページを開いてこちらに見せるようにしているウツシエだった。

「えーっと……何か書いてあるわね。ちょっと拡大するわよ。ここをこーして、よっと!」

 プルアさんが再びシーカーストーンを操作する。
 しっかり拡大できたのだろうか。
 プルアさんの視線が画面を走り、そして不意に私をじっと見つめてきた。無言のままのその視線に、たじろぐ。

「プルア、何て書いてあるんだい?」
「んー……そうね。これはナマエへのメッセージだと思う。『ナマエさん何処にいるの? 今すぐ会いたい。出来るならウツシエを撮って』だって」

 その言葉に、私以外の全員が一斉に私の方を向く。

「えーっと……これは話さなきゃいけない雰囲気ですかね……」

 大きく頷かれる。
 さりげなくリンクさんも頷いている。

「デスヨネー……」

 そうして私はゆっくり話を聞けるようにと、ハイラル城の一画に連行されたのであった。

***

 ナマエさんの行方がわからなくなってから三週間が経った。プルアパッドの試作機のマップには、相変わらず表示のおかしいマーカーがゆるく点滅したまま表示されている。
 最初にナマエさんがハイラルの城にいると表示されてから急いでハイラル城に向かった時には、城内にマーカーが表示されているものの、マーカーが示す場所にナマエさんは見当たらなかった。
 ただ、マーカーが動く気配はなかったから、城周辺の復興の手伝いも兼ねてしばらくハイラル城にテントを張ってそこで寝泊まりした。

 動きがあったのは、一週間ほど経ってから。
 それまでは動いたとしても城の中だけだったマーカーが、北に向かって移動を始めた。
 方角的に……コログの森だろうか?
 マーカーの動きを追いながら、自分も移動した。
 マーカーの移動する速さはそんなに速くない。動きに合わせてみれば、徒歩でコログの森に向かっているようだった。

 そのコログの森……正確には手前の迷いの森ではマーカーの光がゆらゆらとゆらめくだけで、マップを拡大しても同じ場所をずっと指し示したままだった。
 もしかして迷いの森で迷っているのだろうか? ナマエさんなら頼まなくてもコログ達がデクの樹様のところまで案内してくれそうだけど。
 コログ達に異様に好かれるナマエさん。
 いい匂いがするのは物凄くわかるけど、少しは遠慮してほしい。
 そんなことを思いながらプルアパッドのマップを見ていたら、急激な眠気に襲われた。……その眠りの中で、ようやく見つけたナマエさんを押し倒してキスする夢を見た。欲求不満なのは重々承知だけど、本当にやったらきっと顔を真っ赤にして怒られるんだろうなぁ……。

 目が覚めて夢だったとわかって落ち込んだけど、再びマーカーが動き出したから、慌ててその動きを追ったら、ハイラル城に戻っていった。
 
 そしてまたしばらく城を出るような大きな動きはなく、テント生活を再開。城の中を動き回ることはあるけれど、やっぱりナマエさんの姿は見えない。まるでナマエさんの幻影を追いかけている様な気分だった。存在は感じられるけれど、触れることはもちろん、見ることもできなくて物凄く歯がゆい。

 そんな毎日に転機が訪れたのは、突然だった。

「え……ナマエさん? と……ゼルダ様?」

 突然、プルアパッドが勝手に起動したかと思うと、そこにナマエさんとゼルダ様のウツシエが写し出された。行方不明になる前よりも少しだけ痩せただろうか。優しい眼差しでゼルダ様を見ているナマエさんがそこに写っていた。さらに、まるで今まさに誰かがウツシエを撮っているかのように数枚のウツシエが追加される。そこには……

「ウルボザと……俺?」

 英傑の服を着た俺と、どう見ても生きているウルボザが写っていた。
 一体どういうことだろうか?
 一旦アルバムを閉じてマップでナマエさんの位置を確認する。ナマエさんを示している位置は、かつてハイラル平原にあったシーカータワーの場所……。ウツシエの背景から、ウツシエが撮影された場所が地上ではなく高い位置だとわかる。かつて何度もシーカーストーンでワープした先。今は地中に消えてしまったシーカータワー。

「まさか……百年前にいる?」

 荒唐無稽な話かもしれない。けれど、手元のプルアパッドに映し出されたウツシエが今のところ唯一の手がかりであることに間違いはない。それなら……どうにかしてナマエさんに連絡を取れないだろうか。ウツシエが時を越えられるというなら、逆に、俺からナマエさんの元にも何か伝えられないだろうか。
 意を決して、プルアパッドのウツシエ機能を起動させる。そしてウツシエを何枚か撮り、さらに冒険手帳にナマエさんへのメッセージを記してそれも撮影した。

『ナマエさん何処にいるの? 今すぐ会いたい。出来るならウツシエを撮って』

 どうかこのメッセージがナマエさんに届きますように。