なでなでよしよし

「そういえばさ」
「ん? どうしたの、ナマエさん」
「この世界って……『猫』っているの?」
「……ねこ?」
「うん。四足歩行の動物で、身体がとってもしなやかで、すばしっこい。ちょっとした狩人みたいに気配を消して獲物を狙うの」
「それは……なかなか、手強そうな相手だね」
「昼と夜、周りの明るさで黒目のところの形が変わってさ。暗闇の中だと目が光るんだよね。足音もしないから、突然出てきたらびっくりする」
「不意打ちされないよう気をつけないと……」
「鋭い爪は引っ掛かると結構痛くてね。固い板もバリバリになっちゃう」
「そんな攻撃力が? 木の盾だと心許ないかな……」
「え?」
「え?」
「大きさはルミーの半分くらいなんだけど……」
「その大きさで素早くて、気配を消して、闇に紛れられて不意打ちされたら……ハート何個分かは痛みを覚悟しないといけないね」
「いや……あの、猫って可愛いんだよ?」
「ここまでの説明だと恐ろしさしか感じないけど……」
「うーん……可愛さで言うと、馬宿にいる大型犬と系列(?)は一緒……いや、なんて言ったら伝わるだろう……。とにかく、家族として一緒に暮らす人もいるんだよ」
「そうなの?」
「そう。それにね、仕草も可愛いんだよ!」
「へぇ……どんな感じ?」
「じゃぁ、実物がいないので、再現してみます!」

 そういうとナマエさんは手を丸めておもむろに床に四つん這いになり、お尻を左右に揺らしながらはいはいの格好で近づいて来て、俺の座ってる椅子に丸めた手を乗せてきた。
 え……ええっ
 その仕草と距離に、ドキドキする。

「懐いてるご主人様がいると、こんな感じで近寄ってくるんだよ。尻尾をゆらゆら揺らして。あ、ちなみに丸めた手は犬の手みたいに肉球ね。ぷにぷにして可愛いんだ。顔を洗うところがまた可愛くて……こんな感じ」

 ぺろっと舌を出して、丸めた手でナマエさんが自分の頭から顔にかけて手を動かす。目を細めて気持ちよさそうな顔をしてるのも再現なの?

「気まぐれだから、気分が乗ってないと撫でようとしたら猫パンチされるんだけど、ご機嫌だとゴロゴロ喉鳴らしたり、擦り寄ってくるんだよ。さすがにリンクくんに擦り寄るわけにはいかないからそこはイメージね」
「そ……そっか(ちょっと残念)」
「鳴き声も可愛くてね」
「うん」
「にゃぁ」
「!」
「甘えた声で鳴かれると、ついついでれーっとしちゃうんだよねぇ」

 ふふふっと笑うナマエさん。
 今の何、何?

「ナマエさん……もう一回いい?」
「ん? 鳴き声? いいよ。……にゃぁ」

 丸めた手を口元に持っていって、上目遣いで首を傾けながら「にゃぁ」って。
 
 か・わ・い・す・ぎ・る

「もしかして本当はいたりしないかなーって思ったけど、やっぱりいないんだね。残念。もしいたらなでなでしたかったなぁ……」

 心底残念そうに言うナマエさん。

「……それなら、俺を撫でてみる?」
「え?」
「……にゃぁ」
「!」

 ナマエさんが見せたみたいにこてんっと首を傾けながら言ってみたら、ぼんっと爆発したみたいにナマエさんの顔が真っ赤になったまま固まった。そのまましばらく無言。

「……何か言ってよナマエさん。俺、何か恥ずかしい人みたい……」
「はっ……ご、ごめん! 何か半分、危ない世界に入りかけてた。……美形の破壊力半端ないわ。すごく可愛いんだけど、私の中の何かがダメになっちゃう気がする」
「そう?」
「そうなの。それにリンクくんはどちらかと言うとワンコ……犬属性だと思うので、普段通りのリンクくんで十分です。十分、可愛いです」
「……可愛いと言われるのは本当に不本意なんだけど」
「可愛いものは可愛いので諦めて下さい。大丈夫。基本、リンクくんはカッコいいって思ってるから!」
「そ、そう?(カッコいいと思ってくれてるんだ)」

 ナマエさんの言葉に照れてしまう。

「私、猫派なんだけど、リンクくんに関しては犬派になっちゃうな。リンクくん、これからも君は君のままでいてね!」
「う……うん」

 がしっと両手を握られて、何故か力強く言われる。

「リンクくんが祠の試練をクリアした後に『俺頑張ったよ!』って感じで話してくれる時、時々『褒めて!』って感じでリンクくんに尻尾が見えるんだよ」
「お……俺、そんな風に見えてる?」
「うん! 時々。思わずよしよししたくなっちゃうんだよね」
「……だから時々よしよしってされるのか……」

 思わず遠い目になるけど、うん。何となく納得した。年下扱いでもなく、年上ぶってるわけでもなく、純粋に『偉いね〜、頑張ってるね〜』と応援されているような感じがあったのは。

「あ……でも、リンクくんも立派な青年だもんね。頭を撫でられるのはやっぱり抵抗あるか……」
「ん……ナマエさんにだったらいいよ。ナマエさん、今の話からだと小動物可愛がるの好きそうだし。近くに犬もいないし……。俺の頭で事足りるならどうぞ」
「え……いいの?」
「いいよ。ナマエさんには俺が不在の間この家のことを任せてるから、ナマエさんが喜ぶことなんだったらどうぞ。頑張ったねって撫でられるのも別に嫌じゃないし(ナマエさん限定だけど)」
「そ……そっか。なんだか私にとってのご褒美みたいになっちゃうけど……本当にいい?」
「うん。いつでもどうぞ」
「そっかぁ……やったぁ。じゃぁさっそくいいかな?」
「どうぞ」
「では失礼して……」

 えへへとすごく良い笑顔で喜ぶナマエさんが手を伸ばしてくる。

「うー……リンクくんの髪の毛、いつも思うけどふわふわ。手触り良い……」

 なでなで〜。
 よしよし〜。

 ナマエさんの手つきは何時も優しい。
 そして俺をみる瞳も、とても優しい。

「うー。癒される〜」

 ナマエさんは自分にとってのご褒美になるなんて言ってるけど、ナマエさんによしよしってされると、俺も元気が出るんだよ。ナマエさんに出会って、俺、すっかり甘えん坊になってしまったなぁ。