姫様と一緒にリンクの家に向かった。私は普段研究所から出ることをしないから、ナマエやリンクが研究所に来ることがあってもリンクの家に行くのは初めてだった。その初めて入ったリンクの家の中が花でいっぱいの『ふぁんしー』な空間になっていることに衝撃を受けたけど、そう言えばナマエが花飾りを作るなんて言ってたことを思い出して、なるほどねと納得した。
そんなナマエだけど、結論から言うとイーガ団の使う『術』にかかっていたわ。姫様に請われてリンクの家に向かった後、ナマエを抱き締めて横になっているリンクに思わずによによしてしまったけれど、姫様の手前、すぐに気を引き締めてナマエの状態を確認した。呼吸、脈拍、体温、いずれも全く問題無し。次に確認したのは、ナマエの肌。イーガ団が術を使う時には術を行使するための『印』が使われる。それはシーカー族である私たちも一緒で、今回のナマエの状態みたいに人の意識に作用するものであれば、身体のどこかに『印』が刻まれているんじゃないかと思った。
リンクにはベッドから降りてもらい、布団を退けでまずは服から見えている範囲を改める。ぱっと見た所、腕や足にそららしきものは無かった。だとすると服の下?それとも首元?衣服を脱がせるとなるとさすがに男どもには退場してもらわないといけないから、とりあえず先に服を脱がさなくても多少ずらす程度で見える範囲で検分した結果、ナマエの長い黒髪で隠れた耳の裏側に、相当注意して見なければわからないぐらいの小さな『印』を見つけた。
「……なるほどね」
「プルア、何かわかったのですか?」
「はい。姫様。ナマエのこの耳の後ろ側……あ、反対側にもあるわね。それと、うなじのところにも。とりあえず見えるところだけでこの三か所に『印』が刻まれてる。すごくわかりにくいけど」
「『印』……?」
「はい。シーカー族は術を使う時に『印』を媒体に術を使うことは姫様もご存知ですよね。イーガ団も元はシーカー族の者。あいつらはあいつらで独自の術を生み出して使っているとはいえ、基本の「き」の字では『印』を使っているみたい。暗示の類のものであれば『印』を刻む必要は無いと思うんだけど、身体に直接『印』を刻んでいることを考えると、ナマエの身体に直接作用する形で何かしらの術をかけられているものと推測できる。今、ナマエの身体は完全に『術』の支配下にあるんじゃないかな」
「……だからナマエさんは目覚めないの?術を解くにはどうすれば良い?イーガ団の術師を見つけなければどうしようもならない?」
「ちょ、待って待ってリンク!気になるのはわかるけど、いったん整理させて」
取り乱すリンクを、馬にそうするようにほーうほぅと宥め、あらためてナマエの身体の『印』を観察する。
「うーん……やっぱりこれ、肌を傷つける形で直接刻まれてる。刺青のようなものだわ。術を解除するには肌に刻まれた『印』を取り除くか壊せば良いと思うんだけど、ぱっと見ただけでも肌を抉って印を削ぐか、印が壊れるように上から削るか……いずれにしろ痕が残るわね」
「そん、な……それってつまり、俺の身体と同じようになるってこと?」
「少なくとも今印が見えているところはそうね」
「っ……プルア、何とかならないのですか?それではあまりにも……」
肌に傷が残るのは可哀想だけど、どのぐらい深くまで印が刻まれているのか解らないから、抉り取るよりは印の部分に傷をつけて術を壊す方が現実的かしら。それより、印があるのはここだけ?他にもあれば、その分だけ傷痕が残る部分が多くなる。全身を調べてみないと。
……ん?ちょっと待って。
要は『印』が無い状態になれば良いのよね?
この『印』は恐らく針のようなものを肌に刺すことでつけられたもので、イーガ団に捕まっている間に出来た。それなら、ナマエの身体を『イーガ団に捕まる前の状態』に戻せば良いんじゃない?それってアレが使えるんじゃない?
「うふふっ……ふふふふふっアタシってばやっぱり天才だわっ……!」
「え、プルア?」
突然笑い始めた私にぎょっとした顔をするリンクと姫様。二人の後ろに控えているインパは何かを察したのか額に手を添えて若干ジト目になっている。もう!失礼ね!
「安心しなさいリンク。ナマエの身体を傷つけなくても何とか出来ちゃうかもしれないわ」
「本当に!?」
「本当、本当。ぱぱっと準備するから、アンタは一旦退場して」
「え、何で」
「ナマエの服を脱がすからよ」
「ナマエさんの服を脱がす……っ?何で?」
「首元以外に『印』が刻まれている箇所がないか確認するためよ。わかったならシッシッ。幾ら恋人とは言え、意識がない状態で裸を見られるのはナマエだって嫌でしょう」
「そ、それならプルアだって……」
「何バカ言ってるの。これはある意味で医療行為なのよ。百年前にアンタを回生の祠に連れて行った時だってロベリーと一緒にアンタを剥いたのは私なんだから。何とも思わないわよ」
「「え」」
「なーに?姫様も知らなかったの」
私の言葉に同時に固まって赤くなる主従に笑いが込み上げる。
「とにかくアンタと姫様は下で待ってて。全身の確認が終わって処置が済んだら、声掛けるから。いいわね?」
「は……はい」
「ちょっと……想像してさらに赤くなってるんじゃないわよ」
「そ、想像してない!下で待ってるから終わったらすぐに声掛けてよ!ゼルダ様、お茶を淹れますから下へいらしてください!」
「あ……リンク……」
「はっはー!何あの初心な反応!おっもしろーい」
「姉さん……幾ら何でも揶揄いすぎでは?」
「良いのよ!アイツにはこのぐらいのノリで。とにかく!処置が終わるまでは全員下で待ってて。……うっかり巻き込まれたりなんかしたら面倒だからね」
「……プルア?」
「姉さん?」
「あー、何でもないわ。じゃ、早速始めますから」
「……わかりました。ナマエのことをよろしく頼みます」
「チェッキー!まーかせといて!」
にかっと笑って決めポーズ。
この天才プルア様にお任せを!
……って自信たっぷりに言ったんだけどね。
「あ、出力調整間違えちゃったかも」
肌の状態を戻すなら、それはつまり『アンチエイジング』と同じく皮膚の細胞を若返らせればいいんじゃない?『アンチエイジング』を使えば、その効果が作用する対象は全身だから、身体のどこに『印』があったとしても取りこぼすことなく対処できる。そう思って自作のシーカーストーンで出力を調整しながら『印』の状態の変化を観察していたのだけれど、何度目かの照射の後、うっかり強めに光をあててしまった。結果『印』は一瞬で消えたのだけれど……これ、数年分ぐらい若返ってるわよね。
ベッドに横たわったままのナマエの長かった黒髪が短くなり、もともと本人が言うほどの年齢には見えていなかった顔立ちがさらに幼くなっている。異世界から来たナマエの年相応の見た目というものがどんなものかはわからないけれど、このハイラルの基準で考えれば多分、二十代なりたてぐらいの見た目に。
「……ま、いっか」
大人の女性のままであることには変わりないし。本人がオッケーなら良いよね。良いよね!?これは、リンクと姫様に報告する前に本人からオーケーをもらわなければッ!
内心冷や汗をかきながらトントンっとナマエの肩を叩く。私の予想通り『アンチエイジング』で肌に刻まれた『印』が消えたから、印の消失と共にナマエの全身に作用していた術も解かれているはず。
「ナマエ、ナマエ!」
「…………プルア」
何度目かの呼びかけの後、ゆっくりとナマエの目が開いた。ベッドに乗り上げるようにしてナマエの目をのぞき込む。うん。ちゃんと焦点があってる。しっかり意識があるわ。大成功ね!
「ナマエ。目が覚めたのね!」
「うん。……あの、さっき『出力調整間違えちゃったかも』って聞こえたんだけど……」
「へ?」
「それ、手に持ってるそれってプルア自作のシーカーストーンだよね?もしかしてさっき私に照射してたのって『アンチエイジング』?何だか、首元以外にも何箇所かピリピリするところがあるんだけど……」
「!よく知ってるわね。リンクから聞いたの?ってか、眠ってたと思ってたのに。何でわかったの?」
「身体を一切動かせなかったけど、実はずっと意識があったの。だから視界はなかったけれど、周りのことは何となく気配でわかったし、声もずっと聞こえてたんだよ」
「へ、へぇ~……そうなんだ」
「うん。……で、出力を間違えたって……どういうことかな?」
「んんっ?え……えっと、怒らないで聞いてほしいんだけど」
「うん」
「何か多分、五年分ぐらい若返っちゃったみたい」
てへぺろしたら、吹雪吹き荒れるヘブラ山脈のような凍える温度の冷たい目で見られた。ナマエって本当に魔物がいない、戦いもない場所で過ごしてたの?結構な迫力なんだけど!くすん。解術出来たのはワタシのお陰なのにー!
「まぁ……こうして目を覚ませたのはプルアのおかげだよね。ありがとう、プルア」
「いいってことよ。それよりナマエ、リンクと姫様にしっかり話をしてくれる?ちょーっと思ったよりもだいぶ若返っちゃったけど、問題ないって。怒られる気しかしないから……!」
「ん。わかった」
「約束よ!?」
「うん。大丈夫だよ、約束する。ま。この年になると『アンチエイジング』なんて寧ろ望むところよ!ってぐらいだしね」
「だよね!問題ないよね?」
「いや、問題はあると思うんだけど……はぁ。まぁいいや。プルアにはお世話になってるし……。あの、本当にありがとう」
ようやく笑顔を見せてくれたナマエにほっとする。
「それじゃあそろそろ、下でそわそわしているリンクと姫様にも上がってきてもらおうかしら。いいわよね?ナマエ」
「うん。……いいよ」
言葉とは裏腹にちょっと気まずそうな顔で目を伏せるナマエ。リンクじゃなくて、姫様と顔を合わせ辛いなんて思ってんだろうねー。心配しなくても良いと思うんだけど。
心の中で苦笑しつつ、階下にいる二人に声をかけるため手すりから身を乗り出した。
「ナマエが目を覚ましたわよ!」
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2024.11.16 先行公開