ジャム作りが大成功に終わりウキウキした気分で自宅に戻った。
村の皆さんにハテノ学校の子どもたちからのお裾分けという意味でプレゼントしようと大量に作ったジャム。かなりの重量があったのだけれど、リンクくんが手伝ってくれるというのでポーチのスペースを借りて配布にかける時間をかなり短縮できた。
私自身スマホポーチという大変に便利なものがあるのだけれど、明らかにこの世界にものではないスマホを多人数の前で出すのは遠慮したかったから、リンクくんが手伝ってくれると申し出てくれて助かった。
「ありがとうね、リンクくん。ポーチを使わせてもらえたからすごく助かったよ」
学校での片付けを終え、シモンさんに明日からしばらく村を出ることを伝えた後、お手伝いのお礼の夕食をご馳走することと、監視砦までの移動の打ち合わせのために、リンクくんを家に招いた。リンクくんが私の家に入るのは約一ヶ月振り。
「どういたしまして。俺のポーチで良ければ何時でも使っていいよ」
「おお、太っ腹!頼りになるねぇ〜」
「惚れた?」
「それはどうかな」
「ナマエさんに惚れてもらえるように………もっと頑張る」
「そのままのリンクくんで十分だよ?」
「でも………惚れてくれない」
「だって出会ってから二ヶ月しか経ってないし。そのうち一ヶ月に至ってはリンクくんいなかったし」
「俺はナマエさんに一目惚れだよ?」
「はいはい。ありがとうね〜」
「む。またすぐそうやって子供扱いする」
「悔しかったら一人で寝られるようになろうか」
「……………子供扱いでいい」
「ふ……」
「笑わないでよ」
「だって可愛いんだもん」
「俺、もう良い歳だと思うんだけどな……」
「そういえばもうすぐ二十三になるって言ってたね」
「うん。もうなった」
「え………いつ?!」
「一週間前」
「お祝いした?!」
「してないよ。俺の誕生日のことなんて誰も気にしない」
…………そんなわけないでしょ。
それまで良いテンポで交わしていた会話をブチっと断ち切ってしまうけれど、リンクくんの自分を蔑ろにするような言葉にむっとしたから思わずじろっとリンクくんの空色の瞳を覗きこんで睨みつけたら、瞳の奥が揺らいだ。
これはたっぷり本心を曝け出せる機会を作ってあげねば。心のデトックス大事。私の言葉にそうやって感情を揺らしてくれるのなら、二人きりの時なら『素』を出せるのなら、今日はゆっくりこの家で過ごしてもらおうか。密かに準備しておいたフルーツケーキの材料もあるし、夕食のデザートのフルーツケーキをお誕生日仕様にデコレーションしてあげよう。
「私が気にする。はい、おいで」
「ナマエさん」
両腕を広げてハグの準備。
ほれおいで?と腕を広げたままにこっと笑いかけたら、やっと表情が崩れた。ほんのりと頬が赤い。
「いいの、そんなことして。俺、甘えるよ?」
「甘やかすためにやってるからいいよ」
「……ナマエさんは誰にでもこうなの」
「そう思うならそれでもいいけど。今私が広げている腕はリンクくんのためだけだよ。まぁ……君が望むような感情ではないけど」
「……うん。わかってる。………今はそれでもいい。俺が望む感情をナマエさんが俺に向けてくれるまで、口説くから」
「はいはい。いいからほら、おいで」
「……うん」
いいよって言ってるのに頬を赤く染めたまま遠慮しているから、一歩踏み込んでぐいっとリンクくんの背中に腕を回して抱き寄せてやった。ぎゅっと抱き締めたままとんとんっと軽く背中を叩いてあげれば、少しずつリンクくんの身体から緊張が抜けていくのがわかった。
「リンクくん、二十三歳のお誕生日おめでとう!」
「うん」
「生まれてきてくれてありがとう」
「………うん」
「諦めないでくれてありがとう」
「………うん」
「甘えてくれてありがとう」
「………うん」
「生きることを選んでくれてありがとう」
「っ……………………うん」
「頑張ってるね」
「うん」
「よーく頑張ってるよ。えらいえらい」
「うん」
「あのさ」
「うん?」
「もっと甘えてもいいからね」
「え」
「リンクくんはどうやら自分を甘やかすのが苦手なようなので、ナマエさんがおねーさんの包容力で甘やかしてあげましょう!」
「…………そんなこと言っていいの?俺、本当に甘えるよ?我儘も言うよ?悪態だってつくし、好き嫌いあるし、面倒な事はしたくないし、勝つためなら卑怯な事だってする。ナマエさんを手に入れるために監禁しようって思うこともあるかもしれない」
「おお、なかなかディープにダークだね。監禁するなら三食昼寝・散歩付きでお願いします。あと水回りはゴージャスにして。温泉も定期的に連れて行って」
「………ふっ………それ、監禁じゃない………」
「気分転換大事でしょ」
「監禁されてるのに散歩に温泉に………気分転換って…………ふっ……くくっ………あはは!」
「おお。いきなりの爆笑。………ちょっとは元気出たかな?」
「………………うん。元気出た。ありがとう、ナマエさん」
ぎゅっと抱き締めていた腕の力を緩めてお互いに向き合う。顔をあげて正面からリンクくんの顔を見たら、綺麗な空色の瞳と視線が絡み合った。やっぱり綺麗な瞳だなぁ。それに顔立ちもやっぱり綺麗で美人さんだなぁ。うーん。眼福眼福。
そのままじーっと見ていたら、リンクくんが頬に手を添えてきた。そしてゆっくりと近づいてくる顔。うん。すごいキス顔してる。雰囲気と流れ的にはすごく自然なんだろうけど、そこで雰囲気を壊すのがクラッシャーナマエさんなわけですよ。
「ところでリンクくん」
「なぁにナマエさん」
「誰が誰を妻に迎える予定だって?」
今日一番冷えた声が出た自覚ならある。
笑っているけど笑っていない私の心の内を察したのか、リンクくんの動きが唇が触れ合う寸前で止まる。
「……………………………………あー………」
「寝言は寝てから言え」
「…………はい………ごめんなさい」
少し顔を動かすだけで唇が触れそうな距離から逃げ、抗議がわりに脇腹をぐりぐりしてやった。くっ………全然効いてない!
「ちなみに」
「ん」
「誰に言ってるの、それ」
「……………………」
「こら、なぜ視線を逸らす」
「正直に言ったら怒られるかなぁって………」
「怒られるようなレベルで吹聴してるの?!」
「うん、まぁ………。虫除けというか、外堀を埋めているというか。何だかんだナマエさんなら本気で嫌がらないんじゃないかなって思って」
「へぇ?………そう。んで?誰に言ってるの?」
「……………なに…………」
「うん?何だって?」
「会う人みんなに」
「みんなに」
「うん」
「……………………………本気で?」
「本気で。近々妻に迎えたい人がいるって会う人みんなに言ってる」
「ちなみに」
「ん」
「『誰』を妻に迎えたいのか、具体的に言ってたりするの?」
「…………………………」
「また視線を逸らす!!」
「具体的に名前を出さないと虫除けにならないと私の独断で判断しました」
「何で今、騎士モードになった!?」
「今のところ皆さんにおめでとう、と。お祝いの言葉をいただいております。『これまで一切女っ気が無かったリンクが……!』と感動すらされました」
「皆さん少しは疑いましょう?!ってか、誰?!感動したの誰?!」
「シドです」
「シド王子かッ!!」
「シドのことも知ってるんだっけ」
「知ってるよ!私の知っている物語の『シド王子』だけどね!!だからミファー姫のことも知ってるんだからね!」
「……………そっか」
「何で嬉しそうなの……?」
「リーバルの話を聞いた時にも思ったんだけど、知っている人との思い出を分かち合える人がいるのは嬉しい事なんだなって思って」
「っ……」
そこでへらりっと嬉しそうな顔をするのはずるいでしょう!
ん?でもちょっと待って。シモンさんはリンクくんから、私を『妻に迎える予定』だと聞かされたと言っていたけれど、さっきのリンクくんの言い方だと『妻に迎えたい人』って表現だった。シモンさんには断言して、他の人には希望を話したってこと?何で?
「あのさ、リンクくん」
「何?ナマエさん」
「どうしてシモンさんにはあたかも私を妻に迎えることが決まっているような言い方をしたの。他の人への伝え方と違う気が……」
「あー……気づいちゃった?」
私の言葉にまた視線を泳がせるリンクくんをじーっと見つめ続ける。ジト目で。
「気のせいかなとも思ったんだけど」
「気のせいだよ」
「嘘つき」
「うっ……その言い方可愛い」
「急にデレないッ!ご、誤魔化されないからね!」
「あはは!本当に可愛いね、ナマエさんは」
「も、もう!話逸らさないの!」
私の頭を手のひらで軽くぽんぽんしながら口元を隠して頬を染めるリンクくん。その表情につられてこっちまで顔が熱いわ!
「牽制だよ」
「は?」
「シモンへの牽制。まぁ、明日からはしばらく村を離れることになるから、必要なかったかもしれないけど、ナマエさんは俺の想い人だってはっきりわからせておいた方が安心だったから」
「何の心配をしてるのよ君は」
「ナマエさんが俺以外の誰かに心を奪われること」
「うわ」
「『うわ』って………酷いなぁ」
「いやぁ………約一ヶ月ぶりのグイグイリンクくんに吃驚してるだけだよ」
「吃驚してるだけ?………こんなに耳の先まで赤く染めてるのに………?」
「み………耳元で色っぽい声出すの禁止!!」
「くっくく………やっぱり可愛い。やっぱり好きだな。ナマエさんのこと。俺のこと、早く好きになってね」
「だから耳元はやめいっ!!」
「はーい」
くすくす笑いながら離れるリンクくんの表情が楽しくて仕方ないって表情だから、やっぱり許してしまうんだよなぁ。
***
2024.08.07 先行公開
2024.08.18 本公開