中庭

 ドラキュラ城からピーチ城のリンクくんの部屋に戻って来てからずっと! 部屋にこもったまま、寝食忘れて一晩中じっくり時間をかけてリンクくんと二人だけの時間を過ごした。
 私が感じている自分自身の存在の不安を少しでも解消できるようにと、私が安心できるようにと、リンクくんは言葉で、態度で、行動で、全力で私を愛していると伝えようとしてくれた。それが、たまらなく嬉しくって、たくさん泣いてしまった。泣いて泣いて、流れる涙も不安な気持ちも、全部さらけだして、そして、全部受け止めてもらったように思う。
 そんなわけでリンクくんに全力で愛してもらった結果、部屋の外が明るくなる頃には私の頭の中も情緒もかなり冷静な状態に戻っていて、リンクくんへの感謝の気持ちを抱くと同時に、さぁーっと血の気が引く思いだった。
 ふかふかのベッドに二人で並んで転がりながら、リンクくんの腕に抱き寄せられた状態のまま、顔から火が出そうな羞恥心に襲われている。色々やらかした感が凄過ぎて、今の私の顔、見せられない。

「あああ……恥ずかしい。情けない。不甲斐ない。私はずっとリンクくんにとっての頼れるお姉さんでいたかったのに……! 穴があったら入りたい……っ」
「ふふ……。元気出たみたいだね。耳まで真っ赤だけど」
「あえて言わなくていいからー!」
「あはは! ほんと可愛いんだから俺の奥さんは!」

 対してリンクくんは『超』がつくほどご機嫌だ。顔を覆ってるから表情は見えないけれど、私の後ろ頭を撫でる手つきから、聞こえてくる声から、リンクくんがきっとすごく今、優しい顔をしているんだろうなって想像がつく。
 ぷるぷる震えていたら、頭にふにっと柔らかい感触。うぁぁーー頭にキスされた! ……今の私の精神状態ではリンクくんがしてくれること全部がくすぐったくてとんでもなく嬉し過ぎて、ますます顔が熱くなってしまう。

「ねえナマエさん、顔見せて。キスしたい」
「い、今……無理。ちょっと、待ってくれないかな」
「やーだ。待てない。ナマエさんとキスしたい。キースーしーたーいー」
「うぐっ……!」

 こ、このあざとリンクめぇ!
 私がリンクくんの声に弱いことををよーくわかっててこうやって耳元で甘えてくるんだから! それに心なしか、何時もよりもあざとさに磨きがかかってない? これ……やっぱり私が自分の弱いところを曝け出しちゃったからなのかな? 気を遣わせてる……?

「そんなことないからね」
「……へ?」
「どうせナマエさんのことだから、俺がナマエさんに気を遣ってこんなに甘々になってるんじゃないかなんて思ってるんでしょ」
「……エスパー?」
「いや、ナマエさんがわかりやすすぎるだけ」
「くっ、何だとぉ!」
「あはは! ほら、図星でしょ!」
「う、うぅぅ……」
「ナマエさん、顔見せて。ねえ、俺、ナマエさんが今どんな顔してるのか見たい」
「ど……どうしても?」
「うん。どうしても見たいな。ナマエさんの顔。俺が大好きなナマエさんの焦茶色の瞳、見たい。……いい?」
「……ん……いいよ」
「はは! ありがとう。手、外すよ」

 囁くように言われてリンクくんに顔を覆っていた手を片方外された。もう片方は観念して自分から外す。そうしたら、くいっと顎を上向きにされて口付けられた。

「顔を見るだけじゃなかったの」
「先にキスしたいって言ってたでしょ」

 何となく悔しいからじろっと上目で睨んだら、やっぱりすごく優しい空色の瞳で微笑まれた。相変わらずの美人さんめ。

「何時までもこうしていたいけど、そろそろお腹空いてきたよね。ナマエさんが好きなキノコオムレツの材料あるけど、食べる?」
「……うん。食べたい!」
「あはは!良い返事。じゃあ、朝食をしっかり食べて、そうしたらこれからのことを改めて話そうか」
「うん。そうだね。元の世界に戻るために必要なんだろうなってことについては想像がついてるんだけど、元の世界に戻る前に、私は私の存在をはっきりさせたい。リンクくんとずっと一緒にいたいから……クラウドに頼んでセフィロ……んん?」

 これからのことを思いながら話していたら急にキスで口を塞がれた。「何で?」って聞いたら「ベッドの中で他の男の名前を出さないで」だって。も、もーっ! そういうところ! そういうところだぞ! 私がリンクくんに溺れてしまうのはっ!

***

 ナマエさんを甘やかしたくて仕方がない。うん。俺は今ものすごく浮かれてる。浮かれ過ぎてクラウドには引かれるし、マルスには微笑ましい目で見られるし、子どもリンクにはジト目で見られた。ピカチュウやカービィは一緒になってぽやぽやしてくれてる。ジョーカーには「予告状を出しておくべきだったかな」とフッとニヒルに笑みを浮かべられた。予告状って……確か彼は『心の怪盗団』だったよな。一体誰の心を盗むつもりだったんだよ。ナマエさんは俺の奥さんなんだぞ? 人妻に手を出すの、絶対反対! 彼は本当に十七なのか? 俺、一応中身は二十代半ばなんだけど。何というか年齢にそぐわない太々しさがあるよな。ジョーカーって。
 まあそれはそれとして、今、俺たちは二人でクラウドに時間をとってもらってピーチ城の中庭に来ていた。ナマエさん曰く、ナマエさんの存在が何なのか『知って』いそうな存在を知っているセフィロスに会うために、クラウドに協力してもらう必要があるのだとか。そのあたりの説明をしたいからと、クラウドに話しかけるナマエさんから少し離れて中庭の中央に設置されている噴水の縁に腰掛けてぼーっと少し先で立ったまま話をする二人を見守る。
 そういえば確かクラウドってセフィロスにやたら執着されてるんだよな。大丈夫なんだろうか。そんなことをぼんやり考えているうちに、一通りの説明が済んだらしい。気がついたらお願い事とは全然関係のないナマエさんの服の話になっていた。
 
「それにしてもナマエ……どこからそんな服を持って来たんだ?」
「え、これ?」

 クラウドの言葉にきょとんっと首を傾げるナマエさん。うん。正直俺も聞きたかった。どこで手に入れたの。そのごっつい赤いロングコート。

「ふっふっふ。かっこいいでしょ。これ。うふふ。こういうの一回でいいから着てみたかったんだよねー。どうやら私はこの世界ではMiiファイター枠での参戦みたいだから、こんな衣装も手に入れられちゃうみたい!気がついたらポーチに入ってました!」
「えぇ……誰かがナマエさんのポーチに服を入れたってこと?俺のナマエさんのポーチに?」
「ちょ、リンクくん……っ、何ポーチに手を突っ込もうとしてるの!」
「だって『気がついたら』だなんて危ないよ」
「ああ。リンクの言う通りだ。自分の把握していないものを無闇に使うと危ないぞ」
「そうそう、お腹を壊すよ。ナマエさん」
「リンクくん。まるで私が拾い食いをしたかのように言うのはやめようよ。クラウドもそんな引いたような目で見ない。まあ、気がついたら……なんて言ってるけど、何となく誰が入れたのかは予測がついてるんだよね……」
「え?」
「私のポーチに触れられるぐらい私に近づいたのだーれだ」
「……アイツか」

 ナマエさんの言葉に、心底嫌そうに顔を歪めるクラウド。クラウドがこんな顔をする相手なんて一人しかいないじゃないか!あいつ……あの、光の化身のキーラを一刀両断したクラウドにやたら執着しているあいつだ!

「……ナマエさん、今すぐ脱いで! さあ、直ぐに脱いでっ!」
「ば、ばかッ! こんなところで脱がそうとするなーっ!」

 むかーっとしてコートを脱がそうと手をかけたら、赤くなったナマエさんから顎に掌底を入れられた。ぐっ……相変わらず良い一撃。

「と、とにかく、服に罪はない! ということでクラウド、悪いんだけどセフィロスを呼んでくれないかな」
「……仕方ない。奴を呼ばせるなんて高くつくからな」
「はいはい。ごめんね。お代にハイラルの宝石を詰め合わせてあげるから、ティファちゃんへのお土産にしてあげてね」
「……ああ。何かと物入りだから金になるものは助かる」
「ナマエさん、『ティファ』って誰?」
「ん? あ、そっか。リンクくんは知らなかったよね。ごめん。えーっとね、すっごく可愛くて美人さんで強い素敵なクラウドの幼馴染の女の子。確か……この世界ではスピリットになってたよね」
「ああ。俺が知っているティファとは少し違うけどな」
「この世界でスピリットになっているのは君が「何でも屋」をやっていた頃のティファだもんね」
「アンタは本当に色々と知ってるな」
「……まあね」

 少しだけ苦笑するナマエさん。
 ……さっきからナマエさんとクラウドの間で交わされている話、俺にはわからないけど、何かこう……モヤモヤする。

「ナマエさん」
「なぁに? リ、……リンクくん?」
「モヤモヤする。俺にもわかる話して」
「え、えーえっと……クラウド、いい? リンクくんに私の『知ってる』君の話をしても」
「ああ。別に構わない。話さなきゃ、アンタの旦那が妬いてしまってるしな」
「うん。妬いてる」
「リンク……お前、ナマエの前では別人だな」
「あ、わかっちゃう? この抑えきれないナマエさんへの愛」
「医者に行け」
「えぇ……」

 デレるリンクくんを一刀両断。
 ジト目でリンクくんに冷たく『名言』を放ったクラウドと情けない顔をするリンクくんに、思わずぶふっと吹き出してしまった。