電光石火

 リンクくんの部屋でしばらくぼーっと過ごしていたけれど、部屋に来た時は明るかった部屋に夕陽が差し込む時間になってもリンクくんが部屋に戻ってくることはなかった。

「さすがにお腹空いた……」

 手元にあるポーチの中に料理のストックは幾つかあれど『料理鍋』のシステムがおそらく無いであろうこの世界では貴重な料理なので、小腹を満たすためだけに消費したくない。
 リンクくんのお部屋を出て食堂を探すことにしよう。そう決めた時、ちょうど扉をノックする音が聞こえてきた。そして私の名前を呼ぶ声も。

「ナマエ、いるか?」
「……クラウド? ちょっと待って、今、開ける」

 扉を開けてみれば、昼間に別れたツンツンチョコボ頭……もとい、クラウドが扉の目の前に立っていた。

「どうしたの?」
「この時間になってもリンクが戻ってこないからな。そろそろ腹を空かせてるんじゃないかと思って」
「呼びに来てくれたんだ」
「ああ。あんた、食堂の場所を知らないだろう?」
「うん。知らない。だから食堂を探しがてら、城内を探検しようと思ってました」
「そうか。余計な世話だったか」
「ううん。きっと迷子になってただろうから、案内してくれるなら助かる。お願いしてもいい?」
「ああ。もちろんだ。そのために来たんだからな」
「ありがとう! 助かるよ!」

 わぁ! 優しいなぁ!
 ぱっと服装を見る限りACの衣装だし、これは星を救うところまでしっかりこなして本来の自分を取り戻して自分を見つめ直せたクラウドかな? それなら納得。原作初期の頃の記憶が混濁してる時のクラウドだったら、何だかんだきっとそれどころじゃなかっただろうしね。

「クラウドって面倒見が良いんだね」
「別に……」
「お礼に何かご馳走しましょう。この世界のお金を持ってないから、私が持っている食材を使って火を借りての調理になるけど」
「ああ、それなら城の厨房を借りるといい。リンクも時々、厨房を借りて料理してるみたいだし。借り方や使い方はリンクに聞けば教えてくれるだろ」
「おお。さすがリンクくん。……ってか、厨房を借りてるってことは、ゾナウギアの携帯鍋を使い切ったのか、私みたいにゾナウギアそのものが消えてしまったのか……後者の可能性が高いか……」
「……何か言ったか?」
「ううん、何でもない。それじゃあお手数をおかけしますが、食堂までの案内をお願いします!」
「ああ」

 そこでふわりと美人の微笑み。
 おおーっと、その美人顔にノックアウトされそうだよ!?クラウドさんや……。その笑顔は貴重だけど目の毒ですわー。リンクくんの美人顔で大分耐性ついたと思ってたけど、やっぱり美人の笑顔の破壊力はすごい。
 あー、眼福眼福。心の中でとりあえず両手を合わせた。クラウドにはすごく不思議そうな目で見られた。

***

 光の世界を全て攻略してもナマエさんは見つからなかった。流れのまま光の化身だという『キーラ』を光の世界のファイター達と協力して倒したのに、キーラを倒したことで今度は闇の力が強くなったとかで『ダーズ』なんて存在が空を『割って』出てきてから、今日で二週間になる。
 闇の世界の探索も手分けしてやっていけばそこまで日数を要さない。ファイターたちの解放が進めば進むほど、世界の攻略スピードが上がっていっていた。とは言え、ここに来てダーズの力が強くなっているのか、スピリットたちの援護を得てもなかなか一筋縄では行かないようになってきた。「まあ、焦っても仕方がないよ。ここは一つ一つ確実に攻略していこう」とはマルスの言葉。
 闇の世界で解放したファイターの中には自然と気の合う人もいたし、時の勇者?と思うような『こどもリンク』にも出会った。『こどもリンク』に『トゥーンリンク』、それに、スピリットになってしまったゼルダ姫にも。マルスの婚約者だと言うシーダ王女もスピリットになっていた。まさかの……ガノンドロフも。
 たくさんのファイターやスピリット達と顔見知りになった。それなのに、ナマエさんは未だ見つからない。

「ナマエさん……一体何処にいるの……」

 見つかったら見つかったで、ここにいるファイター達とどんな風に接するのかも気になる。この世界に来る直前のナマエさんの様子から見て、ナマエさんは確実にこの世界のことを知っているようだった。つまりそれは、ここにいるファイター達やスピリットとなった人たちのことも知っていると思って間違い無いだろう。
 改めてナマエさんと初めて出会った時のことを思い出す。
 ナマエさんは俺のことを……『退魔の騎士リンク』のことを『識って』いた。だからきっと最初っから俺に対して気安くて、何でも受け入れてくれるんじゃないかって思えてしまうような好意的な態度だったんだと思う。本人もそう言っていたし。それが、俺だけが特別で、別の人には違うとは言い切れない。つまり、ナマエさんが『識って』いる別の『物語』の人たちにもあの裏表のない気さくな感じで、優しい瞳で、接するんじゃないだろうか。そうなった時に……俺と同じようにナマエさんに惹かれる人が少なからずいるんじゃないだろうか。
 ふぅっとため息をひとつ。
 まあ、マルスの言う通り『焦っても仕方ない』だ。ナマエさんに再会できたらたっぷり労ってもらおう。そう思ってピーチ城の大広間へと入って行ったら、視界の端から、黄色い物体が猛ダッシュで近づいてくるのが見えた。

「ピカチュウ? 何であんなに急いで……って、俺!?」
「ピーカーチューッ!」
「え、えぇ……?」

 まるで大乱闘の時のような勢いで急接近してくるピカチュウに思わず身構える。ぶつかられる? かと思った瞬間、目の前でピカチュウが急停止した。

「ピカピー! ピカチュウッ!」
「えぇ……っと、ごめん……俺、君が何を言ってるのかいまいちわからないんだけど……」
「ピカー、ピカピカチュー! ピカチュー!」
「……とりあえず、ついて来い……ってことかな?」

 戸惑う俺の周りをくるくると走り回るピカチュウにそう言ったら、その場でぴたっと止まって一言。「ピカ!」……正解ってことか。
 パタパタと耳を動かしながらこちらの様子をうかがうピカチュウに小さく頷いたら、また「ピカチュウ!」と元気に一鳴きして走り出すピカチュウ。
 向かった先は、ピーチ城の食堂だった。
 食堂に足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んできたのは、この二ヶ月の間その姿を探して求めてやまなかったその人……と思われる背中。見覚えのある後ろ姿に心臓がぎゅっと苦しくなったのを感じた。

「ナマエ……さん?」

 入口の方に背を向けて食堂の椅子に腰掛けているその人。正面に座っているのはクラウド? クラウドにはナマエさんのことを話していたし、もしも俺がいない間にナマエさんと会うことがあったら、ナマエさんに俺のことを伝えて欲しいとお願いしていた。
 だからきっと、間違いない。背中の中ほどまである長い黒髪を結んでいる飾り紐だって紛れもなくナマエさんのもので……。

「ナマエさん!」

 その名前を呼びながら、気がつけばナマエさんに向かって突進する勢いで駆け出していた。俺の声に反応してその人が振り返る動きがスローモーションのように見える。

「リンクくん?……わっ! んんっ」

 聞き慣れた耳障りの良い声が俺の名前を呼んだ時には、座ったままのナマエさんの頭を引き寄せて、その唇に自分のそれを重ねていた。
 ……ん。
 ビーフシチューの味がする。