吹雪の服

「……『吹雪の服』ってえっちぃよね」

 ハイラルを旅している途中、野宿をすることが度々ある。ナマエさんが旅慣れるまでの間は出来る限り馬宿に泊まるようにしていたけれど、一端の旅人として旅慣れた今は、むしろ好んで野宿したりする。例えば今日のように、ハイラルをよく見渡せる山の上で夕陽を見ながらのんびりしようという話になった時とか。
 そんな時は大抵、食事の後に焚き火の前で好きなことを好きなように話をして、何てことないけれど、大事な時間をナマエさんと過ごす。一人で旅をしていた時にはただただ時間が過ぎることだけを待っていた。あの時はなかなか時間が過ぎないことを苦痛に思うこともあったけれど、今はこの時間が好きだな、と思う。
 けれど時々、ナマエさんが急に突拍子もないことを言い出すことがある。多分本人はそこまで深く考えていないんだろうけれど。どうやら今日はその突拍子もないことを言い出す日だったらしい。
 何故かハイラル各地に隠されている様々な効果がある『ラムダの秘宝』と呼ばれる衣装。これまでに手に入れた衣装を一度ざっと見てみたいと、俺のポーチの中を整理していたナマエさんから飛び出た言葉が、冒頭の一言だった。

「ナマエさん、急に何言い出すの」
「前にも言ったけどさ。背中空きすぎじゃない? 腰下のけっこう際どいところまで見えてたよ?」
「ま……まぁ。確かにね」

『吹雪』なんて言葉がついているわりには、確かに背中が大きく開いているとは思う。低温時に冷気攻撃できるのは便利だけど、寒い場所で着るには確かに向いていないよね。凍えるし。

「で、リンクくんは私にこの『吹雪の服』を着て欲しかったんだよね。だけどさ、さすがにサイズが合わないと思うんだけど」
「ああ、それなら大丈夫。サゴノのところでナマエさんサイズに直した服を購入したから」
「え?」

 俺の言葉にピシっと固まるナマエさん。
 あれ? 知らなかった?
 ラムダの秘宝と呼ばれる服でさえ、サゴノに依頼すれば再現してくれるんだよ?ナマエさんでも知らないことあるんだなぁ……と思ってたら「知ってるけどさ、わざわざお願いしたの……?」と微妙な顔をして小さく言ってた。何だ。やっぱり知ってるんだ。

「他にもあるよ。近衛の服と、ドレスが何着か」
「なっ……何でそんなに私の服を準備してるの!」
「ナマエさんに似合うと思って」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……」
「何か気になる?」

 俺の言葉に、軽くうーんと唸るナマエさん。
 ナマエさんは俺が色んな衣装を着ると喜んでくれるけど、俺だってナマエさんが色んな服を着てると可愛いなぁってドキドキしたり嬉しくなったりするよ? 違う意味でもドキドキしたりもするけど。
 そんな風に思っていたら、ナマエさんが不意に目線を合わせてきた。そのまましばらく口を開けたり閉じたり。言おうかどうしようか迷っているみたいだから、ナマエさんが話し出すまで静かに待つ。

「この世界でもあるのかどうかわからないけど、元いた世界で男性が女性に服を贈る時は三つ理由があってね」
「うん」
「一つ目『想いを受け取って欲しい』」
「うんうん」
「二つ目『この服を着て、もっと素敵になって欲しい』」
「うんうん」
「三つ目……『脱がせたい』」
「!」

 ナマエさんの言葉に思わず顔に熱が集まるのがわかった。
 ああ、なるほど。
 確かに三つ目のそれは聞きづらいよね。
 自然ゆるみそうになる口元を手で隠して、ナマエさんから視線を逸らしてしまう。

「リンクくんもそう? そういう気持ちある?」
「ま、まぁ……無いとは言えないね。一番初めは、着替えが無いと困るだろうなって思ったからだったけど」
「その節は素敵なハイリアの服をありがとうございました」
「どういたしまして」
「ちなみに」
「?」
「『吹雪の服』を準備した経緯は?」
「はい。『脱がせたい』からです!」

 もちろん、一つ目と二つ目の理由もあるけどね。
 三つ目の理由、ナマエさんに言われて納得してしまった。そうだな。俺、ナマエさんが色んな服を着てるの可愛いなって思おうけど、結局、最終的には全部見せて欲しくなっちゃうもんなぁ。

「……正直すぎてお姉さん何も言えないよ」

 俺の正直すぎる言葉に耳の先まで真っ赤になるナマエさん。「うー」とか「あー」とか言ってポーチから出した『吹雪の服』を見て唸ってるけど、肝心なことを忘れられている気がする。だってナマエさんも人のこと言えないでしょ。

「あはは。でも俺がナマエさんを脱がす前に、俺がナマエさんに食べられちゃったよね」
「はい! リンクくんが色気ありすぎるのが悪いと思います!」
「ナマエさんも色気がありすぎるので一緒です! というわけで、今夜さっそく着てみてね。あ、何なら今からでも良いよ?」
「にこにこしながらハイラルの勇者にこんなこと言わせてることへの恥ずかしさが半端ないんですが」

 そう言われてもなぁ。
 ナマエさんの前ではついつい正直に本音が出ちゃうからなぁ。

「勇者の前に、さ」
「ん……?」
「俺はナマエさんが欲しくてたまらない一人の男だからね。今夜も美味しく頂きます!」

 あーあ。ナマエさん全然顔が赤いのおさまらないね。
 内心「うぁぁぁ! 墓穴掘った!」とか思ってそう。
 でも大丈夫。
 ちゃーんと人にも魔物にも邪魔されない場所を選んでテントを張ってるから。
 安心して俺に食べられてね。
 いただきます!