03

 霧のかかる迷いの森の中を足元に気をつけながら進んでいく。ひんやりとした冷たい空気。百年後では祠に直接ワープしたから通ることのなかった場所。
 何故だか私は、迷いの森を進むゼルダ姫の一行に同行していた。

 姫付きの騎士の部屋に突然現れた女。
 どこから来たのか、出自もわからない謎の女。
 けれど弓の腕はやたらと良い。

 厄災復活の予言により落ち着かない時勢だからと、箝口令が敷かれていたはずが、いつの間にやら兵士たちの間で噂になっていたらしい。
 そもそも怪しさ爆発であることは自分が重々承知しているから、城内で武器を持つ機会なんて無いと思っていたのに、たった数日のうちに状況が変わった。
 それもこれも全部、リト族の彼のせいだ。
 腕が鈍るからと、弓無しでイメージトレーニングしているところをうっかり見られた。
 それからあれよあれよと言う間に的当てをやってごらんよ、という話になり、与えられた課題をクリアしていくうちに課題がどんどん難しくなっていって………生来の負けず嫌いが災いした。最後は半ばヤケクソになって連射で的当てをしたのが不味かった。
 そんなこんなで気がつけばリトの英雄リーバル様のお眼鏡にかなってしまったというわけだ。
 深いため息をもって地面に視線を落とす。
 するとすかさず、後ろから声が飛んできた。

「何だい辛気臭いね。この僕が君が役立つ場所をあげようってことで話をつけてあげたんだから、もっとしっかりした顔しなよ。それじゃぁ僕がせっかくあげたハヤブサの弓も、浮かばれないってものだよ」
「はいはーい。感謝してますヨー」
「ははは。全く伝わらないね」
「ちょっ、リーバルくん痛い!」

 気の抜けた声で返事をしたらリーバルくんに頭を叩かれた。もちろん本気では無いけれど、一見やわらかそうに見えるリト族の羽は、その実かなりしっかりしているので結構痛い。
 何するんだー!と抗議していると、隣を歩いていたミファー姫に笑われた。

「ふふ。ナマエさん、リーバルさんともうそんなに打ち解けたのね。楽しそうで良かった」
「ミファー姫、お言葉ですがこれは打ち解けたと言うより一方的に遊ばれている気がしてなりません。ミファー姫からも何とか言ってやってくれませんか?」
「うーん………それならダルケルさんやウルボザにお願いした方が良いかも。ね、ダルケルさん」
「ん?俺は仲良くしてンならいいんじゃねぇかって思うぞ。リーバルも何だかんだご機嫌だしな」
「そうそう。リーバルに気に入られるなんて、大したものじゃないか。こと弓の扱いに関しては妥協を許さないヤツだからね。誇って良いと思うよ」
「ナマエはシーカーストーンの知識だけではなく、弓の腕もあったのですね。驚きました」

 ダルケルさんに続いてウルボザ様、ゼルダ姫にもそう言われると悪い気はしない。えへへ………そうですかね〜なんてニヤついていると、今度は頬を羽の先でつつかれた。

「もう!リーバルくんやめて!」
「緩みきった顔してニヤついてるからだよ。君、顔は悪く無いんだから、しゃきっとしてなよ」
「え………リーバルくんに褒められた!奇跡?!槍が降っちゃう?!」
「ほんっとうに失礼だね」
「痛いっ!」

 また叩かれた。

「ふっ」

 すると微かに笑いを堪えたような空気が漏れる音。
 音の聞こえた方向に目をやると、後ろを振り返って少しばつの悪そうな顔をしているリンクさんと目が合った。表情はあまり変わらないけれど、ちょっと面白かったのかな。

「リンクさん、今笑いましたね?」
「……………………いや」
「その答えるまでの沈黙は何ですか。もうっ!」
「………ごめん」
「良いですよー。私の方が年上なんで。許してあげます」

 百年前のリンクさんは確かに凄く無口だけど、何度か話す機会があるうちに、少し話をしてくれるようになったと思う。リンクくんと同じ顔だから、うっかり気安くなりすぎないよう気をつけるのが大変だけど、根が優しいところはリンクさんもリンクくんも変わりない。
 出会いはお世辞にも良い状況だったとは言えないけれど、下手したら城に忍び込んだ賊として処分されることもありえた中、こうして生きていられるのはリンクさんのお陰である。本当にありがたい。
 そしてこの世界がおそらく厄黙の世界なんだろうと確信に至ったのもリンクさんのおかげだった。
 ハイラル城の中に設けられたプルアの研究所に向かって間もなく、テラコを連れてゼルダ姫が研究所に現れたのだ。テラコがいると言うことは、近い未来で厄災が復活した時間軸から少し時を遡った時代にいるということ。そしてテラコの存在により、きっと、リンクくんに繋がる過去とは別の平行世界である世界にいるということ。
 それがわかった時、残酷かもしれないけど、正直ほっとした。
 百年後のリンクくんを失うことはないだろうということに。それが、英傑達が命を落としたという過去の上に成り立っている未来だとしても。

 あー私、酷いなぁ………。
 改めて思って落ち込んできた。

「あー………」
「どうしたんですか、ナマエ?大丈夫ですか?」
「ゼルダ姫………いえ、ちょっと自分の酷さに嫌気がさしたぐらいなので気になさらないでください。自分の問題なので」
「そうですか?何か私に出来る事があれば遠慮なく言ってくださいね。ナマエには遺物の研究で何かと助けて頂いていますから」
「はい!ありがとうございます」

 ゼルダ姫は優しいなぁ。
 それにとても一生懸命だ。
 百年後も百年前も、そう言うところは変わらないんだとじんわり感動する。

「ま。ナマエが情緒不安定なのは今更として、気づいてるかい?僕たちもう同じところをさっきから何度も通ってるよね」
「そうみたいだね。私もここ、見覚えがある」

 リーバルくんの言葉にミファー姫が応える。
 この濃い霧の中、絶対迷うとリーバルくんは文句があるみたいだけれど、この森には道案内がいる。
 実はさっきから何度か気配を感じているのだけど、ここは原作通りゼルダ姫に気がついてほしい。………ということで私は見ないフリをしていた。

「ねぇねぇ」
「………」
「見えてるんでしょ?」
「………」
「ボクちんのこと」
「………」

 たとえ視界に巨大な緑の生き物(?)が見えていようとも、どんなにマラカスを激しく振ろうとも、私には何も見えていない!

「シュンっとしちゃうなー。こっちのお姉さんはどうかなー………」

 マラカスから出る赤い光がキラキラと流れる。
 その生き物………ボックリンは列の後方にいるゼルダ姫に熱い視線を注ぎ………

「キュン!」

 ついにゼルダ姫にその存在を気づいてもらえたのだった。