トワと一緒に過ごし始めてから三日。リンクくんはやっぱりまだ帰ってこない。傷だらけだったトワは目を覚ました後に食べたご飯であっという間に体力が回復し、それとともにかすり傷程度だった外傷もきれいに治った。この三日間、トワが狼の姿から人の姿になることはなく、ずっと狼のままだった。
トワプリの世界では光と影の世界で姿が変わっていたけど……それを考えると、この世界はトワにとって『影』の世界と同じような感じなのかな?
だからね。
ついつい中身が良い年した青年だってことを忘れて、モフモフしてしまいたくなるのは仕方がないと思うの。この、触ってくださいと言わんばかりのツヤツヤした毛並み! もちもちしてそうな肉球! ピンっと凛々しくとがった耳! ふさっふさの尻尾! (感情によって尻尾が動くのがカワイイ!)
怪我の状態を確認している時からうずうずしていたのだけれど、ついに……ついに耐えられずトワに言ってしまった。
「トワにお願いがあります!」
「?」
「ぎゅ……ぎゅってしてモフモフしてもいいかな!?」
「!」
「トワが青年だってことはわかってるんだけど、狼の姿がモフリストの私の本能をくすぐって仕方なくて! お腹の方は触らないようにするから、お願いしますっ!」
「………………」
ぱんっと顔の前で両手を合わせてお願いする私の勢いにちょっと焦ったように視線を迷わせるトワ。やっぱりダメかなぁ……狼の姿とは言え、身体を触られるわけだもんね。出会ってたった数日の女にそんなことされるのはやっぱり抵抗あるか……。と思って、ちょっと残念に思ってたら、トワが近づいてきて鼻先で私の手をつんつんっと突いてきた。
「え……もしかして、いいよってこと?」
「わふ」
「ほ、本当にいいの?」
「わふっ!」
はっはっはっと息を吐きながら尻尾をぶんぶんっと大きく振っているから本当に大丈夫らしい。それならお言葉に甘えて、とそっと手を伸ばしたらトワの方から頭をぐいっと近づけてきてくれた。
手のひらに触れる毛ちょっと硬めだけど、豊かな毛並みは空気を含んで柔らかく、モフモフ具合がたまらない。これはぎゅっとしてその毛皮に顔を埋めたらたまらないモフモフ具合なのでは?!
「で、では失礼して……」
ドキドキしながら両手を広げてぎゅーっ抱きしめようとした瞬間、ふっとトワが私の後ろに視線をやり、すんっとした顔になった。
「ナマエさん……何してるのかな?」
「ふぇっ?!」
気配なく後ろから伸びてきた腕にぎゅっと後ろから抱きしめられる。顔のすぐ横に流れて見えるのは蜂蜜色のふわふわした髪。数週間ぶりに耳元で聞いた甘くて低い声は、少しだけ咎めるような感情が見える声だった。
***
「というわけで、三日前からトワと一緒にいます。そしてモフリストの本能に負けてモフモフさせて貰おうとしてました。ごめんなさい」
「ナマエさんがモフモフ好きなのは理解してるつもりだけど……ソイツ……男なんだよね」
「はい。私の知っている通りなら、リンクくんと同じ名前のリンク。私が知ってる別の物語でのハイラルの勇者です」
リンクくんの目の前で自主的に正座する私。
その横でトワはくわぁっと大きく欠伸を一つ。
そしておもむろに、口を開いた。
『お前、そんなわかりやすく妬いてると心の狭い男だって思われるぞ』
え?
今、喋った?
誰が?
トワが?
思わずぐりんっと首を横に向けたら、トワと目が合ってニヤリとされた。狼って笑うんだ……。言葉を失っていると、今度はリンクくんから「はぁ」っと大きなため息。
「わざと黙ってたね?」
『言うタイミングを逃しただけだ。それにお前が戻ってきたら直ぐにわかることだっただろ? な、ブレ。それにしても、本当にお前が言っていた通り、ナマエは良い匂いがするな!』
「え……えぇ?」
「こら、ヤメロ。それ以上はダメだよ」
『何だよ。少しぐらいいいだろ?』
「ダメ。ナマエさんは俺のなの。いくらトワでも許さないよ」
くんくんと鼻先を私の首元に近づけてくるトワの顔をぐいっと追い払うようにして、リンクくんが正座状態のままの私を正面から抱きしめて私の首筋に口付けてくる。そしてそのままぺろっと舐められた。ぎゃーっ!
「ちょ、ちょっと待って! 首舐めないで! っていうか、リンクくんがトワと会った事があるだろうなとは前々から何となくそう思ってたけど、当たり前のように狼状態のトワと話せるなんて予想外だよ?!」
『最初の頃は俺も話せなかったんだけどな。一度人の姿に戻ってからは狼の姿でも喋れるようになったんだ』
「おまけに自分の意思で姿を変えられるしね。……ナマエさんの反応を見る限り、人の姿にはなってないみたいだけど」
『んなことしたらお前がうるさいだろうが。散々俺の前でナマエのことをデレデレになってアレコレ話し「わー! わー!」……』
「えーっと……何だか色々ツッコミたいことが聞こえてきて軽く混乱状態なんだけど……」
『おう。まぁそうだろうな。戸惑った顔も可愛いぞ。ナマエ』
「あ、お前しれっとナマエさんに何言ってるんだ!」
『お前だって「ナマエさんが可愛すぎるっ!」って言ってただろうが』
「可愛いんだから仕方ないだろ!」
『確かに可愛い。俺もこの三日間でそれは実感した』
「でしょ?! やっぱりわかっちゃうかー。この、見た目は美人で綺麗なのに、中身が可愛い感じ。照れちゃうと直ぐに耳の先まで真っ赤になるところとか、プルプルしながら睨んでる目が羞恥で潤んでるところとか!」
『そうだな。まさしく今の状態がそれだな。これは食べたくもなる』
「トワにはあげないからね」
『油断してたらわかんねーぞ?』
バチバチっと見えない火花が二人の間に見える気がする。って、そうじゃなくて……。
「とにかく、二人が気安く話し合うぐらいの関係になっていたことはわかった。で、トワも色々リンクくんから話を聞いて事情通だってこともわかった。で、トワは本当に自分の意思で人の姿になれるの?」
『おう。見せるか?』
「うん。見てみたい」
「あ、ナマエさんちょっと待っ……」
『よし。じゃ、変わるぜ』
リンクくんが何かを言い終わる前にトワの身体がゆらりと蜃気楼のように揺らぐ。そのままじっと見ていたあら、耳元からリンクくんの「あーあ」という声が聞こえて……。
「んなっ!!何で服着てないのっ!」
「は? 着てるだろ」
「上半身裸なのは着てるって言いません!」
「照れてるナマエ、可愛い。な、ブレ、食っていい?」
「良い訳ないだろ! トワはナマエさんに近づくの禁止!」
わーわーぎゃーぎゃー賑やかな声が家の中に響く。何というか……何時もはちょっと甘えたがりな顔だったり、騎士モードになってたりなリンクくんが同じぐらいの年代の男同士で賑やかにしてるのは凄く新鮮だけど、これから一体何が待ち受けているのやら……。勇者二人が戯れているのを見ながら、ちょっと遠い目になる。
それでもう、この先のことを考えるのは後回しにしていいから、とにかくトワにはいい加減にしてもらって早く服を着てもらいたい。……で、リンクくんは対抗して脱ぐのやめなさい! 何で着せる方で頑張らないかな!
ヤメロ、二人で上半身裸で迫ってくるな!!
あんまりにもな状況に耐えきれず、二人の顎に掌底をお見舞いして私は逃げた。
***
2025.10.28 DBうっかり削除により再掲