「行っちゃったね」
「うん。……寂しい?」
「うん。寂しい。だけどびっくりするぐらい最後はあっさり帰っていったから、お別れを悲しく思うって感じではないかも」
「そうだね。……それはそうと、ナマエさん油断しすぎ!最後の最後にトワに唇を奪われるなんて!」
「ご……ごめん、まさかトワが突然キスしてくると思ってなくて……り、リンクくん!?……んっ……」
トワにされたのと同じようにぎゅっと強く抱きしめられ、頭の後ろに手を添えられてぐいっと引き寄せられる。そのまま唇を……ふにっと指で触られた。予想していたのとは違う感触に、反射的に瞑っていた目を開ける。至近距離に飛び込んできたのは、綺麗な空色。私が大好きな、リンクくんの瞳。
「キスされると思った?」
「……うん。……してくれないの?」
「したいよ。でも」
「でも?」
「ナマエさんからキスして欲しいな」
「!」
「ナマエさんはダークにもトワにもキスされちゃって。油断しすぎ。何なら百年前の世界で俺の幻影にもキスされちゃってたし。リーバルにだってリト族流のキスされてたし。油断しすぎじゃないですか?俺の恋人は」
「ゔ……ごめんなさい……」
コツンっとおでこにおでこをくっつけて、リンクくんがムスッと拗ねる。確かに簡単にキスされすぎだよね私。しかもリンクくんの前で。私が逆の立場だったら絶対しばらくの間立ち直れない。改めて反省。
「もっと気をつけます……」
「うん。そうしてくれると嬉しい。それとね、ナマエさん」
私の言葉に、おでこを離して、でも相変わらず身体をピッタリと寄せ合ったまま、リンクくんが私の目をじっと覗き込んでくる。
ちょ、鎮まれ私の心臓!
ドキドキしすぎ!
っていうか、リンクくんが色気出しすぎ!
何で?
「は、ははははい。私、まだ他にも何かやらかしてた?」
「……俺が知る限りでは無いと思うけど、何かやったの?」
「いや……それらしきものは思い当たらないけど……。リンクくんが改まって言うから何か私が気づいていないところでリンクくんを傷つけちゃってたら申し訳ないなって……」
「ん。今のところは大丈夫かな。ナマエさんは俺のこと大好きなんでしょ?」
「あう……」
「え、違うの?」
「違いません!違わないよ!リンクくんのこと、大好きだよ!」
「じゃぁ、キスしたいって思う?」
「うん。思う」
「……そう思うのは『俺』だけ?」
「うん。私がキスしたいなって思うのは、リンクくんだけだよ」
拗ねるリンクくんに、気持ちを伝えなきゃと、自由になっている腕で慌ててリンクくんの服の胸元をぎゅっと握りしめる。
「私がキスしたいなって思うのも、手を繋ぎたいなって思うのも、こうしてくっついていたいって思うのも、えっちしたいって思うのも、全部リンクくんだけだよ!」
「ちょ、ちょっと待ってナマエさん」
必死になって言っていたら、それまで拗ねていたリンクくんの顔が見る間に真っ赤になっていって、口元を手のひらで塞がれた。
「んーんんー(何で塞ぐの)」
「ずるいよ……ナマエさん。そんな風に言われたら許すしかないじゃないか」
「んんっ……ぷはっ……だって本当だもん。私が、私からキスしたいのも……それ以上のこともしたいって思うのはリンクくんだけだよ」
「んーっ!」
私の言葉に、今度は自分の目元をおおって空を仰ぐリンクくん。あ。ハイリアの服がハイネックだから気づかなかったけど、よく見たら首まで真っ赤だ。
「リンクくん」
「……何?」
目を覆うリンクくんの手をやんわりとどけて、逆の手で頬に手を添えて呼び掛ければ、頬を赤く染めたままリンクくんが視線を合わせてくる。
「キスしていい?」
「……うん」
小さく頷いてくれたから、頬に添えた手をそのまま首の後ろに移動させ、リンクくんの顔を引き寄せる。そっと唇を重ねしばらくそのままに。少しだけ離れて、今度は啄むように何度もリンクくんにキスする。キスしているうちに、もっと、リンクくんのことが欲しくなる。
「大好きだよ、リンクくん」
「ん……俺もナマエさんが大好き」
「嬉しい。ありがとう、リンクくん」
「俺も。俺のこと好きになってくれてありがとう」
ぎゅっとお互いに強く抱きしめあって、そっと目を閉じる。伝わってくる温もり、鼓動を感じて安心する。……と思ってたんだけど。リンクくんの手の動きが怪しい。腰からお尻に向かって……意図的に撫でられてる……。
「リンクくん……この手は何かな?」
「何って……言ったでしょ?覚悟しておいてねって」
「うぇっ?」
「それじゃ、早速行こうか」
「ど、何処へ?」
「ミンフラーの秘湯。ワープマーカー設置済みの温泉はここだけだからね。ナマエさん、久しぶりに温泉に入りたいんじゃないかと思って」
「え、入りたい!それは入りたいよ!入りたくないわけがない!入りたいんですけど……」
「うん。そういうと思った。だから今日はそこで一泊しようね。二人きりでゆっくり過ごそうね。今日は寝かせる気無いから」
「は……はい……」
にこにこと笑顔で、実質『抱き潰します』宣言をするリンクくんに、今度は私の方が真っ赤だ。だけど嫌じゃ無いから困る。
「ナマエさんと久しぶりに二人きりかぁ。楽しみだなぁ。あそこは滅多に人が来ないから、前みたいに声も遠慮しなくていいからね。ナマエさんの可愛い声、俺だけにいっぱい聞かせてね」
「あ……明け透けすぎませんか?」
「それでも好きなんでしょ。俺のこと」
今度はニヤリとちょっと悪い顔。
も、もう!
何だか色んな意味で強くなったね!
「俺のことが大好きなんだってたくさん教えてね」
「はぁい……」
こうして、ある日突然始まったトワと一緒の日々は終わりを迎えた。戻った先のハイラルで、時さんやムジュに私たちとの日々のことを話したりするのかな。
「ね、リンクくん」
「何?ナマエさん」
「トワ、私たちとの日々のこと、忘れないでいてくれるかな」
「きっと忘れないでいるよ。もしかしたら、また何処かで会えるかもしれないしね」
「うん。そうだね。そうだといいなぁ」
この先の未来がどうなるのか、トワとまた会える日が来るのかはわからないけれど、また会えたら、わちゃわちゃ楽しく過ごしたいね。
きっと、リンクくんのためにこの世界に『喚ばれた』トワ。時さんの話だと女神が「迎えにいって」と時さんに言ったってことは、やっぱり女神が『勇者』のためにやったことなんだろう。今回のことは。そうなるとやっぱり……この先、リンクくんが『ハイラルの勇者』として戦わなければならない日がいつか来るんだろうな。何事もなく……そう、何事もなく平和な日々を過ごしていきたいと願うのだけれど、物語の『強制力』はトリップにはつきものだというのも定説な訳で。
「あと数年は様子見だろうなぁ……」
「え?何が?」
「ん……こっちの話」
「?」
私の様子に「?」マークを飛ばしているリンクくん。詳しいことを話せないのは……話したくないのは申し訳ないけど、どうか許してね。
「大好きだよ、リンクくん」
「俺も大好きだよ。そう言ってくれるってことは、俺の希望を叶えてくれるってことで良いよね?」
「……お手柔らかにお願いします」
「それはナマエさん次第だねー」
あははっと本当に嬉しそうに、楽しそうに、愛おしそうに私を見るリンクくん。リンクくんが『勇者』でいることを世界に強いられるのなら、異世界から来た私は君の物語を『識る』者として、そして何より一人の人として君のことを愛しているから、君と手を取り合って支え合えるよう、これからも頑張るね。
The End.