「あの……えっと、リンクくん?」
「なに、ナマエさん」
「何で抱きつくの?」
「だって可愛いから」
「うぅ……えぇ……?」
ハテノ村からまず最初に移動した先は予定通りのリトの村。そこからクムの秘湯に行くために、極寒のへブラの気候に耐えられるリトの羽毛服を買った。
リンクくんとハイラル各地を巡ろうと約束してから楽しみにしてきたことの一つが服集め。ハイリアの服に女性向けアレンジがあったように、何とリトの羽毛服にも女性向けのものがありました!
肌触りはモフモフで、頭飾りもふわっとしていて可愛い。裾は長めの巻きスカートになっていて、足捌きがいいから動きやすい。これで雪山の極寒にも耐えられるって言うから凄すぎる! ズボンはリンクくんが持っているものと同じデザインだけど、リンクくんはスノーブーツを履いている。どこで手に入れたのかにはあえて触れない。触れてはいけない……! 今はその時じゃない。(突っ込む気マンマンという勿れ)
着てみたらどんな感じなんだろうとワクワクしながら服を着替え、リンクくんにお披露目したところで、満面の笑みのリンクくんに正面からぎゅーっと抱きしめられた。ちなみにリンクくんもリトの服だ。抱きしめられたことでリンクくんの服の首元のモフモフに頬が触れる。
あ……すごいふかふかだぁ。
……じゃなくて!
何故?
何故急に積極的になった?
これまでは何だかんだで遠慮してなかった?
「ね、どうしたのリンクくん? そろそろ離れよ?」
「んー……もう少しだけ」
わーっ
すりすりしないで!
顔面沸騰するっ!
恥ずかしすぎて涙目になっていたら、ふと視線を感じた。リンクくんの肩越しに、白い羽毛。凛々しい猛禽類を思わせる鋭い瞳が、驚きに見開かれている。
『テバ』だ!
「……リンク、お前なにしてんだ?」
ほんとそれな。
「ああ、テバ。久しぶり。見ての通り可愛いものを愛でてる」
「お前……そういうところもあるんだな…」
どこか生暖かい目になるテバさん。
その足元には、
「リンク! 誰それ?」
『チューリ』がいた!
ぴょこんっとテバさんの後ろから顔をのぞかせている。
わー。
目がおっきい。
可愛いっ!
弓を持ってるってことは、飛行訓練場に行った帰りかな。
「この人は俺の大事なひと。ナマエさん。テバにとってのサキさん」
「ふーん。『ふうふ』ってヤツ?」
「そう。いつかそうなる予定」
「ちょ……リンクくん?」
「けど今は『こいびと』にむかって頑張ってるところ」
「『こいびと』って?」
「こうやって何時でもぎゅっと出来る関係になるってことかな」
「ふーん。そうなんだ。がんばってね!」
「ありがとう」
「じゃぁまたな。リンク……程々にしておけよ。ナマエと言ったか。リンクがこんなに饒舌なのも珍しい。以前に一緒に戦った時は少し生き急いでるようにも見えてたが……。今のリンクはいい顔してる。アンタのおかげかもな。リンクのことをよろしく頼む」
にっと笑ってぐっと羽を立てる。
サムズアップのように見えるそれはヴァ・メドー戦のムービーで見たあれと同じ。
(おお……生リトのサムズアップだ!)
テバの言葉に思わずこくこくと無言で大きく頷くと、最後に「じゃぁな」と右手をあげてテバさんとチューリくんは去っていった。その間リンクくんはずーっと、私を離さなかった。さすがに頬ずりは止めてくれたけど。
「リンクくん……そろそろ離れようか」
「んー」
「『んー』じゃないよ。は・な・れ・て! さすがに怒るよ」
「……仕方ない。じゃぁ今回はこのぐらいにしておく」
「(今回って……)リンクくん、こういうことは簡単にしちゃダメだよ」
「何で? ナマエさんにしかしないよ」
「だーかーらー!」
リンクくん、わかってる。わかってるね? わかっててやってるよね。あんまりぐいぐい来られると、うっかり勘違いしてしまうじゃないか。
「あんまり気安くくっついちゃだめ! 私のこと無防備すぎるって言ってたのは誰ですか」
「俺だね。俺限定でなら無防備でいいよ」
「今のリンクくんからは危険しか感じないよ……!」
「そう?」
危険しか感じないって言ってるのに、なんで嬉しそうにするかなぁ。
***
服屋での一件後、手を繋いでリトの村を観光した。何時までも抱きしめて離そうとしない俺に業を煮やしたのか「怒るよ」なんて言ってたけど、本気で怒ってなんかいないね。抱き締める代わりに手を繋ぎたいって言ったら、迷いながらも手を繋がせてくれた。グローブ? 当然外してたよ。村のある場所はまだそんなに冷える場所じゃないし、素肌でナマエさんに触れたいから。
そのナマエさんは一通りリトを上から下まで見た後、夕食の準備のために料理鍋を借りると言ってここには今いない。「リトといえばマックスサーモンムニエルでしょう! リンクくん、楽しみにしててね!」と気合を入れていた。
なんでリトと言えば? あ……もしかして歌の練習のあの子達か? そんなことまで知ってるのか……。
ナマエさんがいなくなると途端に暇になる。だからせっかくリトに来たんだしと思って風のカースガノンに挑んできた。最初に比べれば随分あっさり倒せるようになった気がする。
『で。君はこんなところで油を売ってるわけだ。あの姫は君のことをあそこでずっと待ってるんだぜ? いいのかい? 姫のお付きの騎士がそんなので』
「……一通りハイラルを巡ったらガノンに挑む。それまではあの人との時間を大切にしたい」
『はっ! 随分と惚れてるみたいじゃないか。君がそこまで言うなんてね』
皮肉りつつも少し驚いた様子の声が続く。
『カースガノンに何度も挑戦するのは前哨戦のつもりかい? 君もしつこいねぇ』
「少しでも鍛錬になるならやらない手はないだろ」
『ま。いくら百年前の力を取り戻したとは言え、ガノンは一筋縄じゃいかないだろうからね。仕方ないからしっかりここぞという時には僕がこのメドーから援護してあげるから安心しなよ』
「ああ。頼りにしてるよ。リーバル」
『……ふん。当然だろ』
姿の見えない魂だけの存在になっても自信たっぷりな口ぶりはブレないな。
『おっと。彼女が来たようだよ』
リーバルの言葉に崖下に目をやると、こちらを見ているナマエさんと目があった。その瞬間、花が咲くように笑顔になってぶんぶん右手を振ってきた。左手に持っているのはマックスサーモンムニエルだろう。
「っく……かわいい」
『君……本当に饒舌になったね(色々な意味で)』
「言葉にしなければ伝わらないことがたくさんあるとわかったから」
『ふぅん。じゃぁ、せいぜい後悔しないようにね』
ひゅぅっと一陣の風が吹き抜ける。それと同時にリーバルの声は聞こえなくなった。
「わかってるさ。後悔しないようにする。失ってしまえばもう戻れないから」
小さく呟いて立ち上がり、その場から飛び降りる。パラセールを開いてナマエさんの目の前に着地した俺を笑顔で「おかえり」と迎えてくれるナマエさんが可愛い。だから「ただいま」と言いながらさりげなくナマエさんに腕を伸ばしてぎゅっと抱きしめたら、腕の中でナマエさんが固まってしまった。緊張しているのがわかって、ナマエさんには悪いけどちょっと面白い。
「ナマエさんは、なかなか慣れないね」
「リンクくんみたいな美人さんに抱きしめられることに慣れるってなかなかハードルが高いと思う」
「それならずっとドキドキしてもらえるからいいね」
「も、もう! そういうこと言って年上を揶揄うんだったら、せっかく作ったマックスサーモンムニエルは私だけで食べちゃうからね!」
「えー! それは困る」
「だったら離して。ほら、冷める前に一緒に食べよう」
「うん。わかった」
腕をほどけば離れていく温もりとナマエさんの香り。それが寂しい。ナマエさんに触れていたい。一緒に過ごせば過ごすほど、手放し難くなっていることに気づかされる。
「デザートにアップルパイ作るよ」
「え、本当!? やった! ありがとう!」
ふわっと素直に笑うナマエさん。
その笑顔にずっと俺は救われてるんだ。