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 目を覚ましたら知らない天井でした。どうやら私はベッドに仰向けになって眠っていたらしい。目線の先にあるのは規則正しくカットされたどこか温かみを感じさせる木目。柔らかなオレンジ色の光に照らされていて、何だか落ち着く。……でも、知らない天井だ。
 そのままぼーっと天井を見つめていたら、ふと自分以外の気配を感じた。気配を感じるだけでひどく安心して落ち着く。これはリンクくんの気配だ。まだ少しぼーっとする頭をふるっと振ってから視線を横にやったら、予想通りリンクくんが隣にいた。予想外だったのは、髪を下ろしてラフな格好をしたリンクくんが頬に右手を当てて肘をつき、上半身を半分起こした状態で私に向かってにこにこ笑顔を浮かべていたこと。
 何でここにリンクくんが? と思っているのが伝わったのか、目の前のリンクくんが苦笑する。

「おはよう、ナマエさん。夜だけど。お酒は程々にしようね」
「……私……もしかして酔い潰れてた?」
「うん」
「リンクくんが介抱してくれたの?」
「うん」
「……それは大変失礼しました」

 あああ! やっちゃったよ!
 リンクくんが戻って来る時には何でもないような顔で迎えるつもりだったのに! こうなっちゃうからなるべくアルコール度数の低そうなお酒が欲しいってロベリーさんに頼んで見繕ってもらったのに。

「そんなに強いお酒じゃないと思ったんだけどなぁ……」
「甘味で誤魔化されてたけど、結構強い酒だったよ?」
「え……飲んだの?」
「うん。飲んだ。ナマエさんがグラスに半分以上残した状態で潰れてたから勿体無くて」
「感想は?」
「美味しかったよ。でもナマエさんにはきっと強すぎたんだね。次は飲まないほうが良いと思う。それか、どうしても飲みたいなら何かで割って薄めたほうがいいよ」
「うぅ……そっか。ロックでイケるかもなんて欲張らなければ良かった。元の世界でもそれで失敗してたのに。またやらかしちゃった……はぁ……良い歳した大人なのに不甲斐ない! リンクくん改めてありがとう。介抱してくれて」
「……いいよ。でも一つだけ約束してほしいことがあるんだけど」
「? なぁに?」
「お酒飲むのは俺と二人の時だけにしてくれないかな。じゃないと心配で」
「ゔ……私、そんなにプルアやリンクくんに迷惑かけてた? もしかして暴れたり絡んだりしてた? それともまさか……キラキラエフェクトでカバーされるような勢いでげーしちゃったとか……? 研究室の書類を汚してたらプルアに殺される……っ!」

 ど、ど、どうしよう……! そう思ってアタアタしてたらぶはっとリンクくんが吹き出した。

「ナマエさん慌てすぎ。大丈夫だよ。俺がナマエさんを見つけた時は寝てただけだったよ。吐いた形跡もなかったから安心して」
「そ、そっかぁ……良かった」

 ほっとしたら気が抜けた。目元を腕で覆ってはぁ……っと大きく息を吐く。……それで、今更だけど自分が今何処にいるのか疑問に思ってリンクくんにここは何処? と尋ねてみたら、予想外の答えが返ってきてぽかんとしてしまった。

「ここは俺とナマエさんの家だよ」
「Pardon?」
「ん?『Pardon』って何?」
「うわ! 完璧な発音で返してきた……!」
「耳が良いからね。それで、どう言う意味なの?」
「『今なんて言ったの?』って意味だよ」
「ああ。なるほど。『ここは俺とナマエさんの家だよ』って言ったんだよ」
「そ、そうだけどそうじゃなくて! ここ、リンクくんのマイホームなの? 何時の間に? ウルトラハンドで建てたの? 何階建かな?」
「気になるのはそこなんだ」
「私が建てた時は三階建にしてた!」
「偶然だね。この家も三階建だよ。……家の中を案内しようと思うんだけど、ナマエさん、起きれる?」
「ん……大丈夫だと思う」

 多分もうお酒はほとんど抜けてるし。
 ごく自然な流れで差し出された手に手を乗せたら背中を支えて起こしてくれた。その一連の流れがいちいち様になるなぁ、リンクくんは。
 私が寝ていたのは大きめのダブルベッドぐらいの大きさのベッドだった。リンクくんに促されてベッドから降り部屋を見回してみれば、ベッドの部屋のすぐ隣がリビングスペースになっていて、そのスペースを挟んでちょうど反対側は全面が床から天井までの窓になっていて、一部開放されている窓からヒンヤリとした風が入ってきている。
 窓の外はもう暗い。
 それでもハイラルの夜は晴れていると月明かりで明るいから、夜だけど窓越しに遠目に水平線が見えた。海側が全面開放部になってるなんて、何て絶景。アコーディオン状になってるのかな? あの窓。うわー……絶対気持ち良いよ。全部解放したら。

「ここ、アッカレにあるイチカラ村の近く?」
「……さすがナマエさん。それも『リンク』の物語で知ってたの?」
「ん。まぁそんなところ」
「さっき『私が建てた時は』って言ってたけど、元の世界で『リンク』と一緒にいたの?」

 少し拗ねたような声で言って、窓の外の景色に釘付けになっている私に背中側からそっと抱き着いてくるリンクくんにドキっとする。

「ち、違うよ。一緒にいたわけじゃない。一緒にいられたらいいなぁって思ってたことはあったけど現実的な話じゃなかったし」
「ふぅん……」
「……ははーん……妬いてる?」
「妬いてる」
「ふふっ。可愛い」
「あー! また子供扱いしてるね?」
「してないよ。……妬いてくれるほど好きになってくれたんだなって喜んでるんだよ」
「っ……ずるい」
「そう?」
「そうだよ。そんなこと言われたら……嬉しい」
「嬉しいんだ」
「うん」

 わぁ! 素直!
 照れ隠しなのか私の肩におでこを乗せてぎゅっと抱きしめる力を強くするリンクくんが可愛すぎる……! だからよしよしっと後ろ手にリンクくんの頭を撫でてあげたら、もっとぐりぐりと押し付けてきた。

「リンクくん、くすぐったいよ」
「甘えたい気分なんだよ。甘えさせて。ナマエさん」
「ん? ……うん、良いけど。家の中を案内してくれるんじゃなかったの?」
「案内するよ」
「……」
「……」
「……リンクくん? 動かないの?」
「あ、……うん。えっと……」
「どうしたの?」

 家の中を案内してくれると言うのに一向に動く気配のないリンクくん。不思議に思って後ろを振り向こうとしたら不意に身体を抱く腕が離れて、代わりに振り向きざまに頬に手のひらを添えられて口付けられた。不意打ちのようなキスに心臓の鼓動が早くなる。
 重ね合わせるだけのキスを何度か交わしているうちに、もっともっと欲しくなってしまって、わざと唇を少しだけ開いたら、リンクくんの柔らかな舌が侵入してきた。ん……やっぱりリンクくんはキスが上手い。口内をなぞるように舐められて舌を絡められる。『欲しい』って言葉の代わりにキスで訴えられているようだった。勘違いじゃ……ないよね?
 確かめるようにリンクくんの舌の動きに応えるように私もリンクくんの舌を追いかける。追いかけて捕まえて、追いかけられて捕まえられて、これじゃぁ唇が腫れるなぁ……なんて思ってたら不意にリンクくんの動きが止まった。

「ナマエさん何考えてるの?」
「へ……」
「俺のことだけ考えて」

 真っ赤な顔でこつんっと額を合わせて来るリンクくん。なんて可愛いことを言うんだろかこの子はっ! また鼻血が出たらどうしてくれるっ! 思わずリンクくんの頭を両腕で胸に抱いて、可愛い可愛と連呼しながら蜂蜜色のふわふわの頭を撫でまくっていたら、しばらくされるがままだったリンクくんに突然ぎゅっと抱きしめられた。

「ナマエさん」
「ん? どうしたの?」

 意を決したような真剣な声に、胸元に抱いていたリンクくんの頭を離して次の言葉を待つ。顔をあげて正面から私をじっと見てくるリンクくんの顔はやっぱり真っ赤で、何処か熱を孕んでるのがわかった。

「あの、さ」
「うん」
「……ナマエさんのこと、抱きたい」
「……」
「……」
「……」
「だ、ダメかな?」

 私が無言でいるから慌てたように私の両肩を掴んで顔を近づけてくるリンクくん。ダメ……なわけない。私だって……プルアに相談してしまうぐらいリンクくんとキス以上の関係になりたかったから。でも、なんで急に? プルアから何か聞いたのかな? 嬉しいと思う反面、プルアから私が相談していたことを聞いて義務感みたいな感じで言われてるんだったら嫌だな。だって恋人になってから……あえてそういう雰囲気になるの……避けてたよね?
 ちらっと少しだけ上にあるリンクくんの顔を見上げたら、何故だかすごく焦っているような顔になるリンクくん。

「いいよ」
「っ! ほんとっ……?」
「うん。本当。……でもなんで急に? 恋人になってから……その……恋人前よりもあんまりソウイウコトしたいって積極的に言わなくなってたのに」
「えっと……それ、……うん」
「何で?」
「な、何で?」
「うん。何で?」
「それは……」
「それは?」

 ずいっと一歩踏み出してリンクくんに詰め寄ったら一歩下がって視線を彷徨わせるから、むっとしてリンクくんの腰のあたりの服の両端をぎゅっと掴む。
 リンクくんは私の両肩から手を離し、手の甲で自分の口元を隠してしまった。リンクくんがマックスで照れた時に見せる仕草である。耳の先まで真っ赤になって動揺してる。ダメだ。可愛すぎる。こうなってくると私の中の悪魔がもっとこの可愛い生き物を照れさせてしまえ! と囁いてくる。
 きっと今の私はすごく悪い顔をしてるんだろうなぁーと思いつつも、ワクワクする気持ちが抑えられない。口元を隠すリンクくんの腕にそっと触れて顔を見せてと無言で訴え、触れた指先をそのままリンクくんの手の方に滑らせてやんわりと口元から移動させ、そのまま指を絡めてぎゅっと軽く握ったら、リンクくんの瞳が潤み始めた。
 ちょ……その顔は破壊力抜群だよ! 色気がありすぎて困る……っ!

「リンクくん」
「は、はい!」
「このお家ってお風呂ある?」
「え……お風呂……? う、うん。あるよ。ナマエさんがお風呂に入るの好きだって前に言ってたから、少し大きめの浴槽付きだよ」
「わぁ! それはいいね! 今すぐでも入りたい」
「ん。わかった。じゃあ、俺、お風呂の準備してくるね。ナマエさんは自分の準備を……っ、わっ! ナマエさん!?」

 私の言葉に急いで行ってしまおうとするから、慌てて指を絡めていた方の手を引っ張ってリンクくんにぎゅーっと抱きつく。
 そうじゃないんだよ、リンクくん。

「一緒に入ろう? ……今日は、お風呂らしい入り方で入るから、ね」

 そう言ってにこっと笑いかけたら、無言のままぶんぶんっと勢い良く何度も頷いていたから面白すぎてしばらく笑いが止まらなかった。
 赤くなったまま拗ねられた。

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2024.09.15 先行公開
2024.09.22 本公開