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 リンクくんにハイラル城の地下で何があるのかについては最後まで明かさなかった。話をすることで『物語』の流れが変わってしまい、最悪の結末を迎えることになってしまうことが怖かったから。事が起こった時、リンクくんは私の事を恨むだろうか。形式上は『騎士』ではなくなっているリンクくんだけど、『騎士としてどう在るべきか』が身体に染み込んでいるリンクくん。彼が『護る』と決めた主君に危険な事が起こることを知っていてなお、黙っている私を。……ま、恨まれたら恨まれたで仕方ないね。とりあえず、色々吐き出せた事で『お勤めモード』と『プライベートモード』のスイッチの切り替えが上手く出来るようになると良いけど。
 私はリンクくんがマスターソードを失い、ゼルダの手を取れず、右腕をも失って瀕死になる『物語』を知っている。それでも肝心なところは明かさないのだ。

 監視砦のデッキの上に寝っ転がりながら、ぼーっと空を流れる白い雲を眺める。この空に、空島が現れるのか。あるいはもしかしたらもう既に空には空島が存在していて、ゾナウのなんか凄い技術でステルス機能が働いているから見えないだけだとか?だとすると、鳥望台が完成すれば、リト族では到達出来ない高度まで人が到達できるようになるわけで、天変地異が起こらなくともいずれ空島が発見されるに至るのだろうか。
 空島、行ってみたいな。
 天変地異はノーセンキューだけど、空島から見る景色はきっと絶景だろう。雲よりも上だからずーっと晴れだし。夜には星空が綺麗に違いない。高いところは怖いけど、端っこに行かなければきっと大丈夫……なはず。ゼルダの家の前にかかっている橋を渡る時のように、生まれたての子鹿みたいだったってリンクくんに笑うのを堪えながら言われることもないはず!

 ゼルダとリンクくんが連れ立ってデクの樹様のところまでマスターソードを取りに監視砦を出立してから三日。ゼルダも馬に乗れるから、あの二人だけならもうきっとコログの森には到着しているだろう。事が動くまで、あと四日ぐらいだろうか。もっと早いかな。
 ゼルダとリンクくんがコログの森から戻ってきたら、準備が出来次第、すぐにハイラル城の地下へと調査に赴くことになっている。この三日間の間にも体調不良を訴える人が増えているのを私自身目の当たりにしている。そんな状況で、ただでさえリンクくんが私をハテノ村から監視砦まで連れてくる間足止めをくっていたゼルダがこれ以上時間を置くとは思えない。
 ハイラル城の地下から瘴気が上がっていると最初に報告があってから一ヶ月ほどになるのだと言う。そこで何が起きているのかを知る事ができるのは、瘴気に対して耐性があるゼルダとリンクくんだけ。そしてその調査にはマスターソードが必要不可欠。つまり、マスターソードが必要になるような事態が起こっているのだとゼルダには話した。
 私の話を聞いたゼルダは、それならばやはり私が行かなければと、より気合を入れていた。リンクくんはそんなゼルダの様子を静かに見つめていた。……ゼルダの前ではお勤めモードスイッチオンだったなぁ。

「ナマエ」
「あ、プルア」

 私は、リンクくんに請われて監視砦に残ったものの、手持ち無沙汰になってしまった。だからプルアに頼んでスマホに鳥望台で取得した地図データを取り込めないか相談したところ、ちょっと預かるわよと言われ、現在待ちぼうけ中。地図データそのものは今後リンクくんが空に打ち上げられる形で収集してもらうことになるんだけどね。とりあえず機能だけは追加してもらえそうだ。
 そうそう、最初は『さん』付で呼んでいたプルアだったけれど、見た目年齢が同じぐらいと言う事で呼び捨てで良いワ。と言われてからは呼び捨てで呼ばせてもらっている。

「アンタの『スマホ』に新しい地図を登録するための機能を入れておいたわよ」
「ありがとう。さすがプルアだね!異世界の物まで取り扱えるなんて。ヨ!マッドサイエンティスト!」
「まったく調子いいわね。褒められてる気がしないんだけど。……まぁいいわ。ほら、待ってる間に喉乾いたんじゃない?これあげるわ」
「これ何?」
「お酒の入ってないヴァーイミーツヴォーイよ。アンタ、飲みたいって言ってたでしょ」
「ありがとう!プルア様〜!」
「ふっ。もっと感謝しても良いのよ」

 呼び捨てついでに飲み仲間にもなった。おかげでお互い気安く話せるようになった。
 いやぁ、昨夜の飲みは楽しかった!
 私はノンアルだったけど。
 雰囲気で酔えるから良いもんねー。
 もっと早く、ハテノ村にいる時にプルアに声をかけてみればよかったな。そうしたら良い話し相手ができたのに。なーんて思えるぐらい、プルアは話しやすい。
 寝転がった状態から身体を起こし、プルアからヴァーイミーツヴォーイを受け取って手摺りにもたれかかりながら一口。美味しい!元の世界で言うとパッションフルーツのような爽やかなフルーツの甘味と酸味が絶妙。暑いゲルド地方でキンキンに冷えたヴァーイミーツヴォーイ……そりゃぁ売れるわ。機会があったら現地で本場のヴァーイミーツヴォーイを飲んでみたい。

「それよりナマエ。アンタ、リンクとの仲はどうなってるのよ?監視砦に戻ってきたリンクを見て驚いたわ。……記憶を失っていた頃のリンクに近いぐらいスッキリした顔をして穏やかだったから」
「そう見えたなら良かったよ」
「姫様には悪いけど、ゼルダ様の護衛をしているリンクは百年前よりももっと張り詰めた感じだったからね。内心ヒヤヒヤしていたんだけどさ。憑き物が落ちたようなってあんな感じを言うのかしら。ついでに少し頭のネジも緩んじゃったのかしらって思うぐらいだったわ。まさかリンクが人前であんなにナマエにベタベタするなんて予想外だった」
「あ―……うん。そうだね。恋人じゃないんだけどね……」
「確実に外堀を埋められてるわよ」
「ん……うーん。そうかもね。あはは……」
「何よ。煮え切らないわね。姫様のことを気にしてるんだったら気にしなくていいわよ。長い髪と一緒にナマエに言われた『ウジウジ、ウダウダ』した自分とリンクへの恋心をバッサリ切って、今はアンタとリンクを応援します!って公言してるぐらいなんだから」
「んー……それってプルア的にはどう思ってるの?プルアはゼルダがリンクくんのことを想っていたのを知ってたよね」
「まぁ、わりとわかりやすかったからね。たださ。アタシはあれはリンクへの依存からくる恋心だと思ってたからね。健全ではなかったと思ってたわよ」
「そうなの?」
「そーなの。まぁ、リンクが百年前のことを何も思い出してない状態だったらあるいは姫様の気持ちを受け止めるなんてこともあったかもしれないけどね。いや、逆かしら。記憶を取り戻していなかったら、姫様を助けた後はあっさり旅に出てたかも。今みたいに騎士の任を解かれても護衛を続けるなんてことは自分からはしていなかったかもね。それだけ、記憶を失っていた頃のリンクは生き生きしていたから。パンツ一枚でうろつくのはどうかと思っていたけど」
「ここでもパンイチの話が出るんかい」
「え、何?」
「イイエナンデモアリマセン」
「……?まぁいいわ」

 ふぅっと大きく息を吐いてプルアがトレードマークの縦笛をクルリと回す。

「インパにも会ったんでしょ?あの子も同じようなことを言ったんじゃない?」
「あー……うん。まぁ……話が飛躍して何故だか祝言の話になってたね」
「やっぱり外堀埋められてるじゃない。嫌ならちゃんと嫌って言いなさいよ?……まぁ、あのリンクの様子を見る限り、アンタが頷くまで口説き続けそうだけど」
「あ……あはは……」

 プルアの言葉に乾いた笑いしか出ない。

「まぁ、でも。アンタも満更でもない、と」
「ぶふっ!」
「ちょ、汚いわね!」
「プ……ルアが変なこと言うからでしょ!せっかくのヴァーイミーツヴォーイがっ!鼻から出るかと思った!」
「変なことぉ?図星でしょ?」
「……」
「沈黙は肯定と見做すわよ。ふふ。良いじゃない。ハイラル一の剣士がダンナだなんて、将来安泰よー?」
「良く言うよ。リンクくんの精神安定剤として都合が良いだけでしょ?ま、どうやら私のこの世界での立ち位置は『そういうこと』みたいだから別に良いけどね」
「……アンタって変に達観してるわよね。ま。正直に言うとそうよ。アンタがこのハイラルに現れてから、姫様とリンクの関係性は良くなったと思う。リンクも精神的に落ち着いてきたみたいだしね。アンタの言う『死んだ魚の目』にはなってないものね」
「言い得て妙だったでしょう。その表現」
「ピッタリすぎて複雑な気持ちになったわよ」
「あはは」

 私の笑い声にジト目を返すプルアの表情がなんとも言えない表情で、苦笑してしまう。

「リンクくんとの関係云々はとりあえず置いておいて、ゼルダ曰く私はもう元の世界に戻る事が多分無いみたいだから、それならこのハイラルでの平和的快適まったり生活を目指したいと思います!……ということで、私にできる事があるなら一応、出来る範囲で協力させてもらおうと思っているよ。ハテノ学校での先生業にも大分慣れてきたしね」
「ああ。アンタの授業、なかなか評判良いみたいね。シモンも喜んでたわ。良い先生が来てくれて、わんぱくな子供たちもちょっと落ち着いたって」
「子供らしい子供たちだよねー。生意気なところもあるけど、それこそまさに『子どもらしい子ども』って感じ。『ナマエ先生』って呼ばれるのが嬉しくなっちゃったよ」
「アンタ元の世界でも『先生』をやってたの?」
「ううん。やってない。やってないし、それどころか小さい子供は苦手だった。未だに得意とは言えないけど、新米先生として頑張って参りたいと思います!」

 ビシィっと敬礼。
 でも、プルアには通じなかった。
 うーん。カルチャーの違いってヤツだね。

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2024.08.15 先行公開
2024.08.25 本公開