「卑怯者〜! 覚えてろ〜! 若い衆〜! 後は頼んだぞ〜! ナマエ〜! オマエは素直になれ〜! リンク〜! オマエはナマエが男装しなくてもいいって思えるようになるぐらいの甲斐性を見せろ〜!」
何かいろいろ言い残して、コーガは自ら呼び出した鉄球に巻き込まれる形で奈落へと消えていった。傾斜ついてるんだから気をつけてって事前に言っておいたのに……。結局私が知っている通りに目の前で鉄球と共に転がっていったコーガに合掌するしかなかった。
うん。地底でも逞しく生き延びてね。構成員たちが地上からツルギバナナを補給してくれるはずだから。コーガなら大丈夫。地底でもたくましく生きていけるよ。
そうしてしばらくの静寂と沈黙の後、不意にざっと足音が聞こえてびくりっと肩が跳ねた。ざっざっと砂を踏み締める音が近づいてきて、そしてすぐ近くで止まる。足音の主を確かめるまでもない。
「探したよ、ナマエ」
「えーっと……人違いじゃないですか?」
「しらばっくれられるとでも? ずっと男装をして男を演じていた『ナマエ』さん。言っておくけど、ナマエが姿を消す前から君が女の人だってことはわかっていたからね」
「……え」
「もう。……心配した」
ぎゅっと。腕を引かれてリンクに抱き締められる。
男装をしていた時にも何度かふざけて抱き締められたことはあるけれど、身体に分厚く布を巻いて体型を誤魔化していた時とは違って今は薄着だから、リンクの身体の温もりとか身体の硬さとかがダイレクトに伝わってきて硬直してしまう。おまけに首元に顔を埋められているからリンクの吐息が首にかかってくすぐったい。かぁぁっと顔に熱が集まるのがわかって平静でいられない。
「り、りりりリンク⁉︎」
「ナマエ動揺しすぎ」
「だって! 俺が『女』だっていつから……」
「『俺』なんて今更男口調で話したってもう遅いよ。ナマエが女の人なんだろうなってことは薄々勘付いていたけど、確信したのはド根性ガケで温泉に入った時だね。いくら古傷があるなんて言ったって、男同士ならあそこまで身体を見られるのを嫌がらないよ」
「お前、嵌めたな……!」
「うん。嵌めた。ナマエが男でも女でもどっちでも良かったけど、女の人だったらいいなーって思って」
「何でっ」
「何でって……」
私の言葉に、不意にリンクの身体が離れる。そして至近距離でじっと目を見つめられた。吸い込まれそうな空色の瞳がすっと少しだけ細められて、不意に頬に手を添えられた。
「そんなの決まってる」
そしてぐっと顔を寄せられて唇を重ねられた。
「ナマエが好きだからだよ」
吐息がまだ唇にかかるぐらいの距離ではっきりと言われて、ぐっとさらに強く腰を引き寄せられて、また唇が重なる。そのまま何度も啄むようにキスされて、息継ぎすることもできなくてガクッと力が抜けた。うっ……そ、でしょ? 腰が抜けた。
「リンク、ちょ、ちょっと待って」
「嫌だ。待たない。ナマエが俺のことをどう思ってるのかなんて知らない。俺はナマエが好きだ。ナマエのことが好きで好きでたまらないからナマエが欲しい。誰にも渡したくない。こんな……無防備にキスマークなんかつけられて……!」
「ひゃぁっ」
息も絶え絶えになりながら必死でリンクの胸に手をついて身体を離そうとするけどびくともしない。首筋にリンクの吐息を感じたと思ったら、直後にぬるっと生暖かい感触も感じてゾクリと背中にむず痒い感覚が走る。そのままリンクが首筋に歯を立ててくるからゾクゾクする感覚がおさまらない。それに腰に回された腕が徐々に下に下がっていってる。ダメだ、このままじゃまずい。このまま流されてたらリンクに食べられてしまう!
「や、リンク! やめてっ……ダメっ……あっ」
「嫌だ。ナマエが好きで好きでたまらないって言ってるでしょ。この一ヶ月間でよくわかった。もう俺、ナマエがいないことに耐えられない。俺から離れるなんて許さない。ナマエが俺しか見えなくなるまで、俺のことを好きになってくれるまで俺の腕の中にナマエを閉じ込めておくことにする」
「や……ヤンデレ⁈」
「何それ? 俺はナマエが好きなだけだよ? ナマエも俺のこと好きになってよ。俺がいなきゃ生きていけないぐらいに俺に溺れてよ。好きだナマエ。ナマエはコーガが好きかもしれないけど、コーガにナマエを渡す気はないからね」
「ちょ、待って!」
「だから待たないって」
首筋に何度も口付けられ、場所を変えて強く吸われる。
私の意思を無視して一方的に言いたいことだけ言って、明らかに私の肌に痕を残そうとしている行為にブチっと堪忍袋の尾が切れた。
「だから待てって言ってんだろーがっ‼︎ 盛ってんじゃねーぞコラッ‼︎」
ドガァッ
「うぐっ……なかなか良い一撃……」
あまりにもリンクが止まらないから、本気でリンクの鳩尾に向かって思いっきりグーパンしてしまった。
さすがに痛かったのか、私を拘束しているリンクの腕が一瞬だけ緩む。
その隙を逃さずリンクとの間に腕を突っ張って距離を取ってリンクを睨みつけたら、少しだけリンクの瞳に怯んだような色が浮かんだ。
うん。少しだけだけど、冷静さが戻った?
「私の言葉も聞かずに私が誰のことを好きかなんて決めつけるな!」
「で……でも、ナマエはコーガと……」
「何にも無いわ! 首筋のこれはリンクへの当てつけだ! コーガは……私が誰を想ってるのかをわかった上で私を助けてここに置いてくれたんだ。私の気持ちに整理がつくまで」
「え……」
私の言葉に目を瞬かせるリンク。そんなリンクの両頬をがっと掴み、じっと金色のまつ毛に縁取られた空を見つめる。むかつくぐらいまつげ長いな! この美人顔め!
「私が好きなのはリンク、君だよ」
「え……」
「私はリンクが好き。リンクのことが男として好き。君が欲しい。ゼルダ姫にも渡したくない。君を独り占めしたい」
「えぇ……っ」
視線を外さないまま見つめ続けていたら、どんどん赤くなっていくリンクの顔。やっと理解した? 私の想いが誰にあるかって。理解してくれたかなって思ってさらに目を覗き込んだら、不意にリンクの顔が辛そうに歪んで、頬に添えた手をぎゅっと掴まれた。
「それなら何で俺の前から姿を消したの」
「……リンクに本当のことを言って嫌われたり、気持ち悪がられるのが怖かったの」
「実は『女』でしたって?」
「違う。そっちじゃない。……いろいろとリンクが知らないことまで知ってることのほう」
「ああ……ナマエが百年前から生きてるんじゃないかってこと? 俺、ナマエが何歳でも、何者でもかまわないよ?」
「……私が、このハイラルの出身じゃなくても?」
「ナマエは違う大陸から来たの?」
「違う」
「じゃあどこから……」
「異世界」
「え?」
「私はこの世界じゃない全く別の世界からこの世界にトリップしてきた日本人なの。私がリンクのことをリンク以上に知ってるのは、元の世界でこのハイラルでの出来事が『物語』として存在していたからなんだよ」