01

 ヘブラに行くと言っていたから行き先はリトの村かなと思っていた。予想通りだった。
 リンクはシーカーストーンのワープ機能をしっかりと十分に使いこなせているらしく、トンプー亭に頻繁に顔を出せていたのもそのワープ機能のおかげだった。ハテノ村にある祠の色が何時の間にかオレンジ色から青色に変わっていたことや、トンプー亭に頻繁に顔を出すわりにはハテノ村の中でリンクの姿を見かけることがなかったことなどから、ワープ機能を駆使しつつハイラル各地を忙しく巡っているんだろうなとは思っていたけれど、どうやらリンクはこれまでずっとゾーラの里付近を中心にうろうろしていたらしく、ヘブラ地方はこれから新規開拓という段階らしい。

 マジか。
 雪山登山に付き合える気が全くしない。

 ハテノ村を出る時点で見せてもらったシーカーストーンのマップは、マップの右半分に情報が偏っていて、へブラ地方のあるマップ左側……ハイラルの西側のエリアの方は見事に真っ黒な状態だった。トリップ前の原作プレイ時に得ていた事前知識がある私としては、はははーこっち側のエリアのシーカータワーを攻略するのもこれからですかーそうですかーと遠い目になったけれど、リンクの旅に同行することを了承したのは自分。早々に腹を括った。別に私がシーカータワーに登らなきゃいけないわけじゃないしね。
 それから約三週間。
 ハテノ村からリトの村まで徒歩と馬車を組み合わせた大移動をして、何とか無事にリトの村に辿り着くことができた。
 実際に訪れたリトの村は画面の中で見ていた情景から得ていた印象そのままの開放感があった。そして、村の規模は原作で見ていたよりもはるかに大きかった。
 原作の中でいいなぁ~と思っていた場所に実際に来ることができるなんて最高。宿屋でリンクが選んでくれた『リトの羽毛』のふわふわ感を感じられるベッドの寝心地も最高。
 将来的に定住する場所を決めることになったら、このふわふわ感を感じられる布団を最大限愛用できる少し肌寒いぐらいの気候の土地を選びたいと真剣に思った。
 だったらリトの村に住めば? と言われそうだけど、リト族のように空を飛べる羽も、リンクのようにパラセールを自在に使いこなせる筋力も無い私には、リトの村への定住はちょっとハードルが高過ぎる。定住するならやっぱりイチカラ村かなぁなんて考えつつ、リトの村にいる間はこの村での滞在を最大限楽しもうと思った。
 ひとたびこの地方から離れてしまったら、私一人では再びこの地を踏める日が来るかどうかも怪しいしね。

「そんなわけで俺はリトの村で留守番してるから頑張って行ってきてくれ。はい。弁当に肉おにぎり。一応三日分。それと、かぼちゃの煮付け。ご要望通り鍋いっぱい分作ったけど、一気に食べちゃダメだからな。ちゃんと分けて食べろよ」
「わかった! ありがとうナマエ。イチゴをたくさん採ってくるから楽しみにしてて! 俺はマックスサーモンムニエルを楽しみにしてる!」
「はいはい。材料全部揃えてもらったからちゃんと準備しておくよ。気をつけてな」
「ありがとう。行ってくる!」

 ぶんぶんと元気に手を振って飛行訓練場の方へと向かってパラセールを広げて飛び立っていくリンク。飛行訓練場にいるテバに会いに行くんだって。私としてはそのままヴァ・メドーの攻略に行くんじゃないかと思ってたんだけど、テバに会った後にイチゴを採りに行く気満々だった。ヴァ・メドーは後回しかーい。リーバルトルネードを使えるとだいぶ便利だと思うんだけどなぁ。

 そんなリンクは私に向かって大きく手を振ってから飛び立って行ったのだけれど、手を振るのと同時にぶんぶんと勢いよく左右に振れる尻尾が見えたのは気のせいだと思いたい。

 なんか……旅の間に随分と懐かれた気がする。
 話し方も何というか……気安いを通り越して若干甘えられている感じ?
 ハテノ村を出てからそんなに経ってないと思うんだけど、そんなに毎朝のオムレツが気に入ったのか……。胃袋を掴むってこういう感じなのかな?
 私は相変わらず意図的に視線を合わせないようにしてるのに、何時も私のことをにこにこしながら見てるなってわかるような視線を感じるもんなぁ。そんなに見るなら、穴が開くほど見つめ返すぞー?

 ……まぁいいや。

 とりあえずリンクが帰ってきたら約束通りマックスサーモンムニエルを食べさせてあげよう。ついでに歌の練習をしているリト族のチビちゃんたちにもご馳走してあげよう。
 そう思ってよっこらしょと立ち上がった。
 あ、でも宿屋に戻る前に運動がてらリトの村の一番上まで上ってみようかな。
 高いところに上れば遠くまでよく見えそうだし。景色も良いだろうし。

 リトの村は湖から天に向かって高く伸びる『止まり木』のような岩山を囲うようにして鳥籠状の住居が幾つも階段で繋がっている造りになっている。故に村の入り口から天辺までの高低差が凄い。
 平野部での旅にはだいぶ慣れてそれなりに体力がついたとはいえ、上下の移動となるとこんなにも事情が違うものなのか。貧弱な筋肉と心肺機能に自分の目からハイライトが消えている気がするのはきっと気のせいじゃない。あぁぁ……階段が長く続くと本気で辛い。途中何度か休みながら少しずつ上に上るようにしたものの、最上階に到着する頃には息が上がって脚全体がプルプルしていた。私のこの体力の無さは致命的なのでは?
 ここまでの旅で不便を感じなかったのは、リンクがさりげなく進むペースを調整してくれていたからだろう。
 つくづくできる男である。
 リンクという男は。

「やっぱ付いて行かなくて正解だー。この体力の無さで雪山登山したら遭難するわ」

 いくらこのハイラルで旅した経験が多少あるとはいえ、デスクワーク中心の元事務職員の体力の無さを舐めるなよ? 誰に言っているんだかわからない悪態を心の中でついて空を仰ぎ見れば、赤い光をまとったヴァ・メドーが空を悠々と泳いでいるのが見えた。確かあの中に囚われているのはリーバルだったよね。

 リーバルといえば皮肉屋で自信家。蓋を開ければ努力家で自らを鼓舞するために大きな口を叩くリトの村一の弓の名手。
 そういやリーバルもマックスサーモンムニエルが好きだったのかな。
 霊体に『食』の概念があるのかどうかはわからないけど、始まりの台地のお爺ちゃんことハイラル王が食事をしていたことを考えると、霊体の状態でも食べることができるのかもしれない。もしも食べることができるのなら是非ともご馳走させてもらいたい。

 リーバルの魂を解放するにはリンクがメドーの中に巣食う『風のカースガノン』を倒す必要がある。イチゴを採りに行く気満々だったリンクの行動を考えると、メドー解放までにはしばらく時間がかかりそうだ。
 そうだ! リーバルの前に、すでに『水のカースガノン』から解放されているミファーに会えないかな?
 ミファーに会ってコミュニケーションを取ることができたら、霊体の状態でも『食べる』という行為ができるのかどうかを確認することができるかもしれない。
 リンクが戻ってきたら試しにミファーに呼びかけてみようかな。
 リトの村に来るまでの間、何度か『ミファーの祈り』が発動することがあって、そのたびに何か目が合ってた気がするんだよね。ゾーラ族は魚を食べているらしいから、マックスサーモンムニエルもイケるっしょ。……あれ? でも、そういえば『ミファーの祈り』で一瞬現れるミファーって、本人なのかな。霊体状態のミファーってルッタにいるんじゃなかったっけ? 何で目が合ったんだ……?

 よし。決めた。
 リンクが戻ってきたら確かめてみよう。